令和6年11月文楽公演
「仮名手本忠臣蔵」
2024年11月2日~11月24日
国立文楽劇場
TEXT BY 青柳万美
主君切腹御家取り潰しになった赤穂浪士が吉良上野介に仇打ちをした元禄赤穂事件。後の私たちがこの事件を「忠臣蔵」と呼ぶことになるのは今作が大ヒットしたからに他なりません。1747年11月、切腹せず生き残った47人目の寺坂吉右衛門が亡くなります。
その翌年は赤穂浪士の切腹から47年目!数字がぴったりではないかと当時の芝居関係者たちは考えたのでしょう。1748年8月に人形浄瑠璃の竹本座で初演されました。
全十一段。
11月文楽公演では
昼の部が大序~四段目。発端~松の廊下・切腹、城明け渡しまで。
高師直(=吉良上野介)セクハラ&パワハラに耐えかねて塩谷判官(=浅野内匠頭)が切り掛かり、その無念を国家老大星由良之助(=大石内蔵助)が受け止め仇討ちを心に誓うという筋書きです。
〈第1部〉午前11時(午後3時20分終演予定)
仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
大序~四段目まで
さすが義太夫狂言の名作。昼の部だけでも意外と完結感があります。
切腹から城明け渡しまでは観客も身じろぎするのすら憚られる息を潜める緊張感と哀しさがあります。なお、四段目「塩谷判官切腹の段」は古くから「通さん場」と呼ばれ、客席への出入りが禁じられてきました。
〈第2部〉 午後4時(午後8時30分終演予定)
靱猿
仮名手本忠臣蔵
五段目~七段目 祇園一力茶屋の段
夜の部は五段目から。仇打ちに加わりたくも叶わなかった萱野三平をモデルにした勘平の物語。
勘平は間の悪さ、いはゆる「もってない」という悲運はこの大作を盛り上げる大動脈です。
敵の目を欺く為に茶屋遊びをする由良之助がそこに絡みます。
そして仮名手本忠臣蔵が描かれるきっかけといえる寺坂吉右衛門をモデルとする寺岡平右衛門もようやく七段目で登場します。
歌舞伎でもお馴染みの名作で、役者達の工夫が重なって魅せる物語世界とはひと味違うのが戯曲にストイックな人形浄瑠璃文楽の忠臣蔵です。
とりわけ五段目以降はそれが強く感じられます。
とはいえこの七段目はオーソドックスな文楽とは違った演出も。
平右衛門を担う太夫は人形が登場する前の言葉を下手(舞台向って左)の袖の中で立って語り、人形が登場する時に合わせて太夫も舞台に出てきます。さらに見台も床本も無い状態で語るのです。
人形の動きと太夫の語るシンクロ具合を楽しめますよ。
主要な役が揃い踏みしていよいよ仇討ちに向かっていくぞ!!!というのが夜の部。
仮名手本忠臣蔵の前に上演される靱猿も昭和61年2月以来となる女大名バージョンで演じられ一層晴れやかな幕となっています。
これは夜風を冷たく感じる季節には嬉しいものですね。
大序の語りから大詰めまでしっかり張り巡らされた伏線の見事さとその全回収は年明けお正月以降です。
「ちょっと興味がある…」という人、「この場面をもっと楽しみたい」という人のために幕見という座席がありますが、七段目のみ&当日夕方16時以降の購入なら舞台前方の一等席を通常の半額より安く観ることが可能とのこと。公演プログラム(700円)を買えば人物関係も物語の流れも全てわかるようになっています。
また、1部・2部の通し券(別日程可)や学生料金などお得な値段設定もあります。「文楽は敷居が高い」と思う人も、多くの人が知っているこの演目なら、「気楽」に見ることができるでしょう。