「大いなる不在」
  2024年7月13日公開
認知症になった父親と長い間、疎遠だった息子を描いた作品。すでに海外の数々の映画祭などで受賞、高く評価(別項)されているのが物語っているように、年老いて記憶が薄れていく現実、そして親と子の〝微妙な距離感〟とそこにある〝愛情〟は万国共通だ。
 そうした映画が数多く発表されているなか、この作品が印象的なのは、そういった感情を濃厚にことさら〈ドラマチック〉というのではなく、むしろ淡々としたタッチで描いていることだろう。それには、藤竜也と森山未來というキャスティングが大きな効果をあげている。藤が演じた父は、森山が扮した息子を「あなた」と呼ぶように、物腰が柔らかく知的。そんな人物が、ときには意味不明な言動をするところが哀しい。再婚した妻にも同じように接しているが、ときには苛立ち、怒りだす姿にリアリティーがある。さらに、妻の代わりに身の回りの世話を焼く妻の妹には…。
自分と母を捨てた父と久しぶりに会った息子は、〝長い時間〟で変わった父を寂しく思いながらも、その間になにがあったのか?を探っていく。時間が交錯し、経緯がややわかりにくい気もしたが、その謎がだんだんと明らかになっていくあたりは、推理小説、映画を観ているようでもある。
「老い」を扱った作品にはメッセージ性が前面に出たものも多い、いい意味
エンタテインメント性もある。
〈ストーリー〉小さいころに自分と母を捨てた父(藤竜也)が、警察に捕まった。連絡を受けた卓(森山未來)が、妻の夕希(真木よう子)と共に久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義理の母(原日出子)は行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが…。
〈スタッフ〉監督・脚本・編集:近浦啓 共同脚本・監督補:熊野桂太 プロデューサー:近浦啓 堀池みほ ラインプロデューサー:越智喜明
撮影監督:山崎裕 美術:中村三五 リレコーディングミキサー:野村みき サウンドエディター:大保達哉 音楽:糸山晃司
録音:森英司 弥栄裕樹 衣装:田口慧 ヘアメイク:南辻光宏 助監督:石井将 制作主任:齋藤鋼児 スクリプター:保坂栞 製作・制作プロダクション:クレイテプス 配給:ギャガ 助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立立行政法人日本芸術文化振興会
〈海外映画祭での評価〉◆第48回トロント国際映画祭プラットフォーム・コンペティション部門にてワールドプレミアを飾る。◆第71回サン・セバスティアン国際映画祭のコンペティション部門オフィシャルセレクションに選出。藤竜也が日本人初となる最優秀俳優賞を受賞。◆サン・セバスティアンの文化財団が最も卓越した作品に与えるアテネオ・ギプスコアノ賞を受賞。◆アメリカ最古の国際映画祭である第67回サンフランシスコ国際映画祭で最高賞にあたるグローバル・ビジョンアワードを受賞。
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