「道草キッチン」
  2025年12月12日から京都シネマ、12月13日から第七藝術劇場、元町映画館で公開
 2023年の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、中年女性エヴリン(ミシェル・ヨー)が主人公で、エヴリンが劇的に変わる瞬間を描いた名作だった。アカデミー主演女優賞ほか主要7部門受賞の快挙は、映画市場が落ち込んで行く中、人生の苦労や喜びを味わいつくした中年女性の面白さにハリウッドが注目した証拠だった。日本でも後に続け・・・ではないが、これから公開される『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』の天海祐希が気骨のある中年女性を演じているが、本作の中江有里も、人生の岐路に立つ中年女性を飄々と演じ、面白味があった。
 俳優・歌手・作家とマルチに活躍する中江有里は、大林宣彦監督作『風の歌が聴きたい』(1998)以来26年ぶりの主演となる。登場する主人公は都会で喫茶店を営む50代の女性・りつ。健康に不安を抱えていたりつに、ある日、相続に関する通知が届く。思いがけないことだったが、喫茶店を閉めることを考えていたりつは徳島への移住を決める。
りつは、ただただ一生懸命に生きて、QOLの大切さになど気づいていなかった人物像だ。今は亡き叔父夫婦が住んでいた古い家屋を片付けていくうちに、りつは、叔父の妻でベトナム人のミンが、どんな人物だったかを知るようになる。ミンのレシピを手がかりに、ベトナム料理を覚えるりつの中に、それまでの生活との整合性のようなものが見いだされてゆく。これは『赤い薔薇ソースの伝説』や『バベットの晩餐会』といった、食が人の心をつなぐ人間ドラマの系譜でもあり、りつが隣人達とゆるくつながっていくシーンは、散文的な描写の映像も含め、型にはまらないところがあって楽しめる。
主人公は、それまで会ったことも無い人物ミンと、本当の意味で親戚になっていく。国籍も時空も超えて誰かと繋がる喜びを描いた物語、というと大袈裟だが、劇中のおいしそうな料理にお腹が空いてくるような良質の作品。フードコーディネーターは佐伯栞南。監督は『フィリピンパブ嬢の社会学』で国籍を超えて支え合うカップルを描いた白羽弥仁。
(2025/日本/96分)
配給:キョウタス
© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会
※ この映画について、辻則彦の記事もご参照ください

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