「松竹上方喜劇まつり」
       南座  2025年11月1日~24日

 どちらの演目も、松竹新喜劇が結成(1948年)前から、上演が重ねられてきた。題名や内容にはさまざまな変化があったものの、アップデートを繰り返しながら長く愛され、いまも老若男女に親しまれている。
 今回、それを「松竹新喜劇公演」ではなく、藤山直美を中心にした「松竹喜劇まつり」と題して上演された。林与一、三林京子たち「上方」の味わいを熟知し、体現している人たちによる座組で。ある意味で両演目の「テキスト」とでも言う矜持も感じる公演。

■「一姫二太郎三かぼちゃ」(作・茂林寺文福。演出・浅香哲哉)
 「アットン婆さん」役など喜劇役者として活躍した曾我廼家十吾が、茂林寺文福として物語を作り、1932年に「丘を越えて」という題名で初演されたのが始まり。1969年に藤山直美の父で、「昭和の喜劇王」として人気を集めた藤山寛美がいまの題名に変更、三郎を寛美が持ち役に、松竹新喜劇の代表作になった。彼の没後(1990年)、この役をいろいろな人が演じてきた。なかには、志村けん「志村魂」シリーズの1作として大阪・新歌舞伎座などで演じて話題を呼んだ。それをふくめて寛美以外も多くを観てきたが、やはり〈アホ〉役で人気を集めた寛美の芸に近づこうとしていたのは、やむをえないか。しかし、時代が変遷するなか、〈アホ〉という多分に精神的な様相も含めた形容を笑いに昇華するのは大いに抵抗があるのは確かだ。
 今回は設定をいまに変更して、あえて「その課題」に取り組もうとしている。留代を演じた藤山も、稚拙とも思える言動で笑いをとるのではなく、人情喜劇としてこの作品をブラッシュアップしようという気概を感じた。つまり、確かに学校の成績は悪かった(劇中で兄がこう言うもしたが、そんなことには関係なく、家族、それも特に両親を思いやる気持ちが人一倍あるキャラクターというのが前面に出ている。だからこそ、両親の「長寿のお祝い」という大切な日には気負いがあり、ときには空振りしてしまうのだ。一方、彼女を取り巻く兄弟とその伴侶たちも、これまで観たなかでは、留代へのまなざしが〝温かかった〟。なかでも、弟の雄三との掛け合い、取っ組み合いは、まさに、ありそうな〈兄弟喧嘩〉の光景。ちなみに、雄三を演じた伊賀健二は、松竹ならぬ吉本新喜劇。漫才の経験もあり、藤山のアドリブにもうまく返すなど好演。そんななかで、人数分に切り分けたはずのカステラなのに、自分のぶんがない留代の姿、なんとも哀しい。
 願わくば、兄弟たちが見栄を張る様子、同調したり戸惑ったりする伴侶たちの描写がもう少しあれば、終盤に向けての感動が増しただろう。
〈あらすじ〉田舎の旧家・西田家の兄弟たちはみな都会で成功を収めていた。しかし次女の留代だけは実家に残り、両親の面倒を見て暮らしている。両親の長寿のお祝いで帰省した兄弟たちは都会での成功談に花を咲かせているが、留代は蚊帳の外。幼い頃から馬の合わない兄弟たちに馬鹿にされながらも、両親のためと耐え忍ぶ。この時、留代の家族愛が兄弟たちを救う日が来るとは、誰も知る由がなかった…。

■「お祭り提灯」(作・舘直志、演出・脚色・星四郎、演出・浅香哲哉)
 この作品も長年にわたって愛されてきた演目。歴史は明治後期にまでさかのぼり、歌舞伎などさまざま形態で上演。それを、二代目渋谷天外が舘直志というペンネームで松竹新喜劇向きに再構成。人情喜劇の印象が強い劇団にあって、〝爆笑もの〝の1作と言えるだろう。なかでも、寛美が扮する丁稚・三太郎の無邪気さ、強欲な金貸しなのにどこか人情味、おかしみのある小島慶四郎の山路屋幸兵衛との絶妙な掛け合いがいまも頭に浮かぶ。
 かつて南座で、どういうわけか新喜劇を観たことがないという1人の見知らぬ若い女性が隣りに座った。開演前、不安そうな?彼女に、思わず「大丈夫、これはおもしろいよ」と声をかけた、太鼓判を押した手前、上演中も気になってチラチラ見てしたが、終わると「おもろかったです!」と笑顔が見られた、それが、この演目だった。まさに、老若男女、そして初心者も「理屈抜き」に楽しめる。人情喜劇のレパートリーが多いなか、爆笑ものの代表作と言えるだろう。
 あざとい金貸しが、純粋無垢な丁稚の機転でやられてしまうという痛快さが魅力。そして、「繰り返し」(ルーティーン)という世界共通の喜劇の鉄則が、笑いを増幅させる。寄付金二十五両をめぐって徳兵衛夫妻、、町内の世話役が舞台から花道へ、花道から舞台へと駆け回る姿がおかしい。同じことが何度も繰り返され(ルーティーン)、しかも、そのたびにヘトヘトになったみんなの衣装が乱れていくさまで笑いがおかしくなっていく。曾我廼家玉太呂は町役の1人を持ち役にしていて、今回も最後は袴を抱えような恰好で、吹っ切れた演技を披露。そこへ、丁稚役の藤山が現れて…。登場人物の息遣いが最高潮に達するなか、「動きと静」の対比の妙、藤山のあえて演技を抑えたクールな風情が爆笑を誘う。見事な構成だった。
〈あらすじ〉ある日のお祭りでにぎわう町内でのこと。金貸しの幸兵衛は、正直者の提灯屋・徳兵衛が拾った祭りの寄付金二十五両を横領しようと企てる。徳兵衛は財布を提灯に隠すが、妻のおすみは夫のへそくりと誤解し、別の提灯に入れ替えてしまう。二十五両を巡り、徳兵衛夫婦、世話役の佐助と勘太、幸兵衛、そして丁稚の三太郎までもが巻き込まれ、事態は思わぬ方向へ。果たして、財布の行方はいかに!?
〈出演〉藤山直美、林与一、三林京子、中村亀蔵、大津嶺子、はな寛大、ほか。
写真=左から藤山直美、前田絵美、伊賀健二、川並美弥生 藤吉みか、中村亀鶴
(C)松竹

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