「タンゴの後で」
2025年9月5日公開
マリア・シュナイダー(1952年~2011年)、懐かしい名前だ。とはいっても、残念ながら若くして亡くなったため、いまでは知らない人も多くなったが、間違いなく「映画史」に残る女優といえるだろう。彼女を一躍、有名にしたのは19歳の時に出演した、ベルナルド・ベルトリッチ監督による「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972年)。マーロン・ブランドを相手に、ときには即興の掛け合いなど、ものおじしない自然体、そして大胆な演技を披露して、脚光を浴びた。その「ラストタンゴ・イン・パリ」撮影現場で起こった「ある出来事」で「芸術か?猥褻か?」とセンセーショナルな話題となり。彼女は一躍「時の人」になった。当時、私も作品内容そのものより、そうしたことに注目して映画館に足を運んだのを覚えている。
久しぶりに、その映画を見直した。当時としてはショッキングだったフルヌードシーンなども登場するが、いまではそれほど驚くことではなく、「限られた部屋」での年齢が離れた愛を注視。すると、ブランドが扮する老いを感じ始めている男の哀しさが伝わってきた。とはいえ、アドリブで撮影されたといわれる、男性が女性に「あること」を強要するシーンは、そのア情報を知るとやはり直視できず、おおいに問題があると感じた。
この映画は、マリア・シュナイダーの半生、それも「ラストタンゴ・イン・パリ」撮影当時と、そこで起こった「あること」がトラウマになり運命を翻弄されていく様子が描かれている。マリアを演じたたアナマリア・ヴァルトロメイは、ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作「あのこと」で注目されている。この映画では、「演技ではないような演技」を巧みに披露。「ラストタンゴ・イン・パリ」をめぐるシーンには、マリア像を「再現」するという使命があるのだが、むしろ、アナマリアのみせどころは、「その後」の姿。他の映画でも必然性のないヌードを要求されるなど、映画界では彼女に「ラストタンゴ・イン・パリ」の残像を求める。有名になったがために、苦悩する変遷を演じている。ちなみに、劇中でに登場するインタビューされるシーンで、「好きな出演作は、「さすらいの二人」(1974年)」と答える。ミケランジェロ・アントニオーニ監督で、ここでも名優ジャック・ニコルソンと堂々とわたりあっていた。
一方、マーロン・ブランドに扮したのは、マット・ディロン。フランスシス・フォード・コッポラ監督の「アウトサイダー」(1983年)などで青春スターして活躍した彼が、うまく年輪を重ねて中年男性に。超個性的だったブランドははまり役だった。
一生、「あのこと」を背負っていきたマリア。たまたま、インタビュー会場の近くの部屋にベルトリッチがいたことがあり、その時にマリアがとった行動は…。この作品は、第77回カンヌ国際映画祭に正式出品。世界中で問題とされるエンターテインメント業界におけるセクシャルハラスメントなどについて問題提起している映画でもある。
〈ストーリー〉19歳の若手女優マリア・シュナイダーは新進気鋭の監督ベルナルド・ベルトルッチと出会い、「ラストタンゴ・イン・パリ」で一夜にしてトップスターに駆け上がる。しかし、48歳のマーロン・ブランドとの過激な性描写シーンは彼女に苛烈なトラウマを与え、その後の人生に大きな影を落としていく。
〈キャスト〉アナマリア・ヴァルトロメイ、マット・ディロン、ジュゼッペ・マッジョ、セレスト・ブランケル、イヴァン・アタル
〈スタッフ〉監督・ジェシカ・パルー。脚本・ジェシカ・パルー。ローレット・ポルマンス。原作・ヴァネッサ・シュナイダー著「あなたの名はマリア・シュナイダー:「悲劇の女優」の素顔」(早川書房・刊)。撮影監督・セバスティアン・ブッフマン(AFC)。編集・トーマス・マルシャン。セットデザイン・ヴァレリー・ヴァレロ(ADC)。衣装・アレクシア・クリスプ=ジョーンズ。音楽・バンジャマン・ビオレ。製作・マリエル・デュイグー、レ・フィルム・ド・ミナ、アレックス・C・ロー
。2024年 / フランス / フランス語 / 102分 / カラー / 5.1ch / PG-12/ 原題: Maria /英題:Being Maria / 日本語字幕:岩辺いずみ / 原作:「あなたの名はマリア・シュナイダー ―「悲劇の女優」の素顔」 (早川書房・刊) / 協力:CHANEL / 配給:トランスフォーマー
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