「道行き」
2026年2月13日からテアトル新宿など
2月20日からシネ・リーブル神戸など
2月27日からテアトル梅田、京都シネマ
映画のタイトルになった「道行き」(道行)には、いろいろな意味がある。文字通り「道を行く」というのはもちろん、歌舞伎や文楽では男女が連れ立って旅をする。それも、許されぬ恋のため心中をするという物語などで使われる。文楽の人形遣いで人間国宝である三代目・桐竹紋十郎が、初めて「俳優」として出演しているとあって、勝手に悲劇へ向かう作風を想像していたが…。これは、ある青年が大阪から奈良の御所(ごぜ)市へと「違う土地に移住」するということと、それによって「現代」から「懐かしい昔」へ時間を遡るという、ある意味での「時間の移ろい」のダブルミーニングにもなっている。
物語はモノクロームでゆっくりとしたペースで進んでいく。物語といっても、ドラマチックな展開はなく、青年が古民家の持ち主である老人をはじめ、地元の人々との会話が主で、のどかな風景が映し出される。実際に地元の暮らす男性が自らの昔を振り返り話すなかで登場する、昭和時代に一世を風靡したバッキ―白片とアロハ・ハワイアンズのスチールギターの響きがノスタルジックな気分をそそる。
全編を通じて、ドラマというよりも田舎の暮らしをとらえたドキュメンタリーのようにさえ思える。その一番の要因は登場する人々の自然な会話。中尾広道監督をモデルにした青年を演じるミュージシャンでもある渡辺大知(神戸市出身)をはじめ、「お日様」を「おひぃさま」などという桐竹紋十郎の関西弁は演技を超えた存在感と説得力。文楽人形を遣う時は無言なのはいうまでもないが、義太夫、三味線も相まって、人形に命を吹き込む演技力は、「映画俳優」としても立証している。また、地元の人々が、「自分の言葉」で出演しているのもいい。ゆったりと時が流れるなか、1つのアクセントになっているのが、劇中に登場する「面売り」という文楽の演目。大道芸人の講釈に合わせて、面売りの娘が面を次々取り替えながら踊るというにぎやかな作品で、御所市にもかつては商売人たちが往来し、大道芸人がこのように目抜き通りを練り歩いていたという。そうした、町の移り変わりを象徴している。
さらに、実在する建物、鉄道も大きな役割を果たしている。岐阜県の揖斐川橋梁を走る樽見鉄道の光景は鉄道ファンは必見。また、実際に御所市にある有形登録文化財の中井家住宅をはじめ、梅本家、中山家、中尾家といった古い建物が映し出される。老人が家の中へ案内するシーンは、長回しでの撮影。つい見過ごしてしまいそうだが、建物を傷つけることなく、どのようにカメラを設置したのか?さりげない描写のなかに、強いこだわりを感じさせる。
こうして青年と老人の交流が続くが、ある日に老人はこの地を離れて子供の住むところへ移ると告げる。これも、いつものように「普通の会話」なのだが、文楽などの「道行」ほどの悲劇ではないものの、これがいまの現実と悲しく。哀しい。
〈ストーリー〉駒井は奈良の古民家を購入し、改装の準備のために大阪から引っ越してくる。元所有者である梅本は、駒井に町の歴史や古い屋敷について語り、駒井も自ら町をたずね歩く。改修工事が徐々に進むにつれ、過去の出来事やかつて存在した古びたものたちから少しづつ埃が払拭されていく。
〈キャスト〉渡辺大知、桐竹勘十郎、細馬宏通、田村塁希、大塚まさじ、上田隆平、梅本 修、清水弘樹、中井将一郎、中山和美、ちょび。<人形浄瑠璃 文楽「面売り」>
作詞・作曲:野澤松之輔。振付・藤間勘寿朗。面売り・豊竹呂勢太夫。案山子・豊竹靖太夫、豊竹亘太夫、豊竹薫太夫、竹本織栄太夫、鶴澤藤蔵、鶴澤友之助、野澤錦吾、鶴澤燕二郎、鶴澤清方
〈人形役割〉面売り娘・吉田勘彌。おしゃべり案山子。吉田玉佳。人形部。吉田簑紫郎、吉田玉翔、吉田玉延、桐竹勘昇。その他・人形浄瑠璃文楽座。はやし・望月太明藏社中。
〈スタッフ〉監督・脚本・編集・中尾広道。製作・矢内廣、堀義貴、佐藤直樹、五十嵐博、矢嶋弘毅。プロデューサー・天野真弓。撮影・俵謙太。題字・桐竹勘十郎。音楽・「マカラプア」バッキ―白片とアロハ・ハワイアンズ。「猫目唄」(作曲・細馬宏通)。制作プロダクション:エリセカンパニー。配給・マジックアワー。第28回PFFプロデュース作品。2025年/白黒/80分/DCP/ヨーロピアンビスタ。©2025 ぴあ、ホリプロ、日活、電通、博報堂、一般社団法人PFF