「わが歌ブギウギ」
   2026年1月2日~20日   三越劇場
        1月24日~2月1日 南座      

 「ウワァーオ、ワオワオ~」。ワイルドな〈叫び〉から幕が上がる。黒澤明監督の「酔いどれ天使」(1948年)に登場するキャバレー・シーンで笠置シズ子が歌う「ジャングル・ブギー」。荒々しいまでの歌唱、踊りは笠置のキャラクターを物語っている。モノクロのあの映画を観た時の強烈なインパクトが、主演のキムラ緑子によって再現され、冒頭のつかみは上々。ただし、ここは映画で印象的だった、野太い男声の合いの手も欲しかったところ。
 亡くなって41年が経つ笠置だが、2023年に放送されたNHKテレビ小説「ブギウギ」で再び注目を集め身近な存在になった。実は今からさかのぼること39年前、NHKは銀河テレビ小説「わが歌ブギウギ」を放送、1995年にはテレビ版と同じく順みつき主演で舞台化、1994年には真琴つばさで再演された。私は拙著「少女歌劇の光芒」を発表する以前から、少女歌劇という日本独自の演劇形態に関心が持っていたこともあり、それらすべてを観ている。舞台版の前2作では宝塚の元男役トップスターが、OSSK(大阪松竹少女歌劇団)のスターを演じたが、今回で笠置を演じるのはキムラ緑子。M.O.Pという京都を拠点にした劇団の看板女優として、「小劇場」と呼ばれるジャンルで活躍した。南座で観劇した時、ロビーで‘意外な?知人夫妻に会った。2人は「小劇場」ファンで、その頃から彼女を観続けていて、その流れで足を運んだという。OSK日本歌劇団の元トップスター・桜花昇ぼるが重要な役で出演していることもあって、レビュー・ファンも多く見かけたが、思わぬクロスオーバーになっている。キムラにはミュージカルやライブ出演の経験はあるものの、歌やダンスを専門的に習ったわけではないが、それがむしろいい効果を生んでいる。というのは、残された映像で笠置の歌やダンスを観てみると、華麗で豪華に…というのではなく、歌詞・メロディーに込められた情熱を観客にぶつけるといったもので、それがいまもONLY ONEの存在になっている。独特の声を張り上げ、上半身を前に突き出し、下半身でリズムをとるアクションを、キムラは型からではなく、気持ちから踏襲しているように思えた。
 それもあって、今回の舞台は予想していたショーシーンよりも、人と人との交流を描く芝居部分に引き込まれた。なかでも、笠置が「夜の女」たちと交流するエピソード。レコードから流れる自分の歌声をきっかけに、、彼女たちと遭遇するシーン。それまでのストーリ展開、生い立ちの紹介で、笠置のわけ隔てがなく、ざっくばらんな性格が描かれてきたので、危険地帯にも平気で入っていく行動もうなづける。さらに、恋人・英介の訃報を電話で聞く場面。客席に背を向けて受話器をとり、しだいに現実がわかる変化を後ろ姿で表現、それがよけいに悲しみが伝わってくる。0そして、「東京ブギウギ」「買い物ウギウギ」など、〈ブギの女王〉が納得できるヒットパレード。そして、ある決断へと続く。
 また、私にとって興味深かったのは、笠置が女性ばかりの劇団「大阪松竹少女歌劇団」(OSSK)から、男女混成の劇団「松竹楽劇部」へ移籍するくだり。。拙著「男たちの宝塚」、それを原案にした舞台「宝塚BOYS」で紹介したように、宝塚には男性加入への試みが何度かあった。松竹もまた同様にそうした試みがあり、実際にOSSKとは別の劇団として「松竹楽劇部」を創設。大人の客層を意識したその劇団で、笠置のキャラクターは開花したのだった。そのあたり、ドラマの背景、伏線として重要なのだが、劇団の名称が似通っていることもあり、観客にはわかりにくかったのでは?劇中で、笠置と英介がそれぞれ自らの生い立ちを話すシーンがあるが、それに倣って「大阪松竹少女歌劇団」(OSSK)と「松竹楽劇部」の説明をもう少し欲しい気もした。いずれにしても、バックステージものとしても貴重な作品で、これからも〝語り継いで〟ほしい。
〈キャスト〉キムラ緑子、林翔太、曽我廼家寛太郎、惣田紗莉渚、賀集利樹、一色采子、桜花昇ぼる、松村雄基、青木玄徳、妃那マリカ、合田くるみ、尾上菜摘、酒井果菜未、桂佑輔、山本育子、千葉紅花、渡邊花鈴、藤森瑞生
〈スタッフ〉作・小野田勇、補綴・演出・齋藤雅文、美術・平山正太郎、照明・北内隆志、音楽・服部隆之、音楽監督・塩谷翔、音響・本間俊哉、振付・前田清美、衣裳・冨樫理英、ヘアメイク・河村陽子、歌唱指導・菅原さおり、舞台監督・瀬尾健児、伊藤真、制作助手・中村恭子、協力・亀井ヱイ子。製作・松竹
写真(C)松竹

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