劇団四季「ゴースト&レディ」
2025年12月7日~2026年5月17日
大阪四季劇場
歴史ある劇場に棲みつく〝ゴースト〟?は、フランスだけではない。イギリスのウエストエンドにあるドルーリー・レーン劇場。1663年に最初の建物が建設され、1812年からの4代目も、さまざまな演劇を上演し続けている。私もかつて、この劇場で「ミス・サイゴン」などを観劇したことがあるが、舞台上はもちろん、建物そのものに歴史、物語を感じて、ほかの劇場とはまた違う魅力を感じたものだ。
この物語は。その劇場のシアター・ゴーストでグレイ(灰色のコートを着た男)として語り継がれている〝人物〟と心触れ会う女性を軸にしたミュージカル。ヒロインは、実在したフローレンス・ナイチンゲール(1820年~1910年)。イギリスの上流階級の家庭に生まれ育った彼女は、恵まれて人生を約束されながらも、慈善活動を通じて看護婦になることを決意、1853年から1856年にかけてロシア軍とイギリス、フランス、オスマン帝国同盟軍との戦い=クリミア戦争の最前線で兵士の看護につとめた。この作品は、そうした現実にあった歴史を背景に展開する、
多くの人が教科書などを通じて、ナイチンゲールという名前は知っている(つもり)だが、それは歴史上の偉人という医大な業績の部分がほとんど。そんななか、藤田和日郎の漫画「黒博物館 ゴーストアンドレディ」を原作にしたこの作品は。〈サクセス・ストーリ-〉ではない、看護婦という仕事への偏見に対する絶望、そして恋ななどを生身の人間としての喜怒哀楽をドラマチックに描いている。
劇団四季ミュージカルは、〈夢の国〉などによる幻想的でロマンチックな作品、大ヒット映画のミュージカル化などは言うまでもないが、ファミリーミュージカル「ジョン万次郎の夢」、昭和の歴史三部作と言われる「李香蘭」「異国の丘」「南十字星」などもある。それらは実在の人物に焦点を当て、歌とダンスなどを交えることによって物語性を膨らませる作品として人気がある。そういった意味で「ゴースト&レディ」は、劇団四季によって上演するにふさわしいミュージカルと言えるだろう。
開幕のとき。日本舞踊や和物レビューには、暗闇から「チョン」と柝(き)が入り「パッ」と明るくなる「チョンパ」という手法がある。それで言えば、これは「ドンパ」。観客の意表をつく幕開きだ。「劇場」が1つのキーワードになっているだけに、シェイクスピア作品、セリフが随所に登場して物語を暗示?していく。例えば、ゴーストという存在は「ハムレット」の父の亡霊などをイメージするし、シアター・ゴースト=グレイは「人生は舞台、人はみな役者」(「お気に召すまま」より)などと語る。そうした構成が格調を漂わせている。
ゴーストは人間に接近するのがよくあるパターンだが、この物語では人間=フローことナイチンゲールのほうからゴースト=グレイに近づいてくるのがユニーク。こうして両者が激動の人生を共にしていくなか。それぞれの宿敵がいた。グレイが敵である騎士のゴーストと剣を交えるシーンは、フライングも駆使してダイナミックな見せ場。一方、野戦病院で懸命に看護にあたるフローには、彼女の活躍で自らの地位を脅かされると感じる軍医長官が立ちはだかる。横暴の限りをつくす長官。その象徴として、最初に登場するシーンでは「のどが渇いた」と、物資不足のなかでワインを要求するが、半分飲んだだけ…。ここはグィと飲み干してほしかったところ。
一方、フローの揺れ動く心情も。かつての恋人アレックス・モートンが任務のために野戦病院へ赴任。久しぶりの再会に彼を見つめる一瞬に〝素の彼女〟が垣間見える。そのとき、フローを尊敬し看護団に加わっていたエイミーが、要件を伝えに来る。ここは2人の様子を見て気を遣うような、もうちょっとした間合いがあれば…。その後、この3人にある変化が訪れることになる。
観劇回は高校生の団体鑑賞があり、開演前ににぎやかだったが、始まると舞台を注視? 私も含めて、「ナイチンゲール」が近い存在になった。
〈ストーリー〉時は19世紀。舞台はイギリス。 ドルーリー・レーン劇場に現れたのは、有名なシアター・ゴーストのグレイ。芝居をこよなく愛し、裏切りにあって命を落とした元決闘代理人。 そんなグレイのもとをひとりの令嬢が訪ね、殺してほしいと嘆願する。 それは看護の道に強い使命感を抱くも、家族による職業への蔑みと反対にあって生きる意味を見失いかけていたフロー。 最初は拒んだグレイだが、絶望の底まで落ちたら殺す、という条件で彼女の願いを引き受ける。 死を覚悟したことでフローは信念をつらぬく決意をし、グレイともにクリミアの野戦病院へ赴くことに。次第に絆を感じ始める2人だったが、 そこで待っていたのは、劣悪極まる環境と病院改革に奔走するフローを亡き者にしようと企む軍医の存在。 さらにその傍らにはグレイと同じ、あるゴーストの姿が…。
原作:藤田和日郎「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(講談社 「モーニング」)。演出:スコット・シュワルツ。脚本・歌詞:高橋知伽江。作曲・編曲: 富貴晴美。音楽監督:鎭守めぐみ。振付:チェイス・ブロック イリュージョン:クリス・フィッシャー。美術:松井るみ。衣裳: レッラ・ディアッツ。擬闘: 栗原直樹。照明: 紫藤正樹。映像:松澤延拓。フライング・振付:ポール・ルービン 。音響:渡邊智宏。ダンス音楽アレンジ:ロブ・バーマン。照明スーパービジョン: アマンダ・ジーヴ。
撮影・野田正明
観劇日(2025年12月19日13時の回)のキャスト
フロー(フローレンス・ナイチンゲール)町島 智子。ジョン・ホール軍医長官・芝清道。グレイ・加藤迪。デオン・ド・ボーモン 宮田愛。アレックス・モートン・分部 惇平。ウィリアム・ラッセル・内田圭。エイミー・柴本優澄美
ボブ・緒方隆成。【男性アンサンブル】飯村和也、佐龍龍城、澁谷智也、黒田大夢、計倉亘、木内和真、松井龍太郎、河上知輝、川村英。【女性アンサンブル】島原ゆきみ、菩提行、あべゆき、町真理子、大岡紋、矢鳴優花、清水智紗子、奧平光紀、黑柳安奈。