「平場の月」
2025年11月14日
(東宝主催の試写会にて鑑賞)
春夏秋冬で言えば、人生の秋か冬にさしかかった頃の恋を、リアルなタッチで描いた恋愛映画。原作は2019年に山本周五郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった朝倉かすみの同名小説で、監督は『罪の声』『花束みたいな恋をした』『片思い世界』の土井裕泰。
主人公は中年期にさしかかった青砥健将。 離婚後、新しい職場で心機一転し再出発した青砥は、ある日思いがけず中学時代に片思いだった須藤葉子に再会する。お互いに独身の二人は息が合い、付き合うようになるが・・・。
劇中、須藤葉子の部屋はよく片付いているが、片付き過ぎていてちょっと寂しいほどだ。経済力以上に、青春期のような多くの期待を抱いている年齢と、小さなことで幸福感を得られる年齢になっている時期の違いを表現したミニマルな描写。そこから、彼女がどんな心の世界を持っている人物なのかと興味が高まっていく。又、今は妻でもなく、母でもない一人の女性が、妻であり母である知人の女性と、どんな風に関わっているかを描いたサイドラインは、女性問題を描いたものでもあり重要だ。井川遙演じる薄幸な須藤の子供時代は、境雅人演じる青砥の視点から描かれていて、その課程にミステリアスな要素がある。青砥を狂言回しにした構成のせいで、上品な恋愛ドラマにしては、ドラマ全体が枯れ過ぎた印象にならなかった。
須藤は個人として自律的に生き、様々な責任を自ら引き受けようとする。肘を張ったキャラクターともいえるこの人物を、井川遙が肩の力を抜いて演じた。人生はままならないものだが、多分長さではない。人生の秋、誰か大切な人に出会えた主人公達が、ひどく密度の濃い時間を生きているように見える1本である。脚本は『愚行録』『ある男』の向井康介。
(2025年/117分/日本)
配給:東宝
©2025映画「平場の月」製作委員会
出演: 堺雅人 井川遥 坂元愛登 一色香澄
中村ゆり でんでん 安藤玉恵 椿鬼奴 栁俊太郎 倉悠貴
吉瀬美智子 宇野祥平 吉岡睦雄 黒田大輔 松岡依都美 前野朋哉
成田凌 塩見三省 大森南朋
主題歌:星野源「いきどまり」(スピードスターレコーズ)