2025大阪・関西万博開催記念「爽秋文楽特別公演」
2025年9月6日~10月14日
〈開演時間〉
9月6日~9月25日
【Aプロ】午前11時(午後1時15分終演予定)
【Bプロ】午後2時(午後5時10分終演予定)
【Cプロ】午後6時(午後8時終演予定)
9月26日~10月14日
【Cプロ】午前11時(午後1時15分終演予定)
【Bプロ】午後2時(午後5時10分終演予定)
【Aプロ】午後6時(午後8時終演予定)
2025大阪・関西万博開催記念
国立文楽劇場が、令和7年9月から10月にかけて、「爽秋文楽特別公演」を行っています。どう特別なのか。例年なら夏に親子劇場などの公演があって、次に東京で公演というところ、今回は「2025大阪・関西万博開催記念」として、大阪・日本橋の国立文楽劇場で行われているのです。伝統文化と言われるものを次の世代に、そして違う国の人たちに、どう伝えていくのか。時代ごとに工夫は必要です。それを考えるのも大阪・関西万博のテーマ[いのち輝く未来社会のデザイン]=SDGs です。今回の公演はその点でもさまざまなTRYがなされています。
まず、今までは第1部、第2部、第3部という表現をされていましたが、これがAプロ、Bプロ、Cプロという表現になっています。日本の伝統芸能の公演で考えると、非常に「おお、違う」となるわけです。第1部とか午前の部とか昼の部とか、そういうのに慣れてきた中で、Aプロ、Bプロ、Cプロ。確かに海外の方に説明するにはわかりやすいでしょうか。とはいえ「第1部は終了しました」と聞くのと「Aプログラムは終了しまし」と聞くのは、余韻がちょっと違うなぁと劇場で思いました。日本向けと英語表記を別々にしても良いのかもしれませんね。
そして、そのAプロとCプロが、公演期間の中頃から時間帯が入れ替わります。Bプロは変わりません。コロナ以降3部制となり、終演が遅い演目はお客様がちょっと少なめ。仕事帰りに見に来る方もいらっしゃるけれども、年配の方などで「夜遅いのは…」という方もいらっしゃるのでしょうね。今回の取組の結果、お客様で早い時間にいらっしゃる方が一定数いるのであれば、今後にもこのようなTRYは活かせることだと思われます。海外からいらっしゃっている方たちも最近は多く見かけます。幕見で一部分だけご覧になる方もいれば、各部をしっかり全部ご覧になる方もいらっしゃいます。今回はAプロとCプロの冒頭に「Welcome to BUNRAKU!」と題し、人形浄瑠璃文楽がいかに日本の世界に誇る舞台芸術であるかという説明が簡潔に英語でされています。(もちろん日本語の字幕付)初めて文楽をご覧になる方たちも「ああ、そういうものなんだ」と知ったうえで見られるようになっている、と良い工夫だなと思いました。
私は1日にA・B・Cという全プログラムを鑑賞したので、2回この映像を見たわけですが、2回見ても飽きませんでした。と言うのも、名作の舞台映像でつながっていくので「あ、この演目!あそこいいシーンよね」とか、「誰々さんが遣っている~」とか、「いま語ってるの、あの太夫さんかな」など、〝当てっこ〟みたいな楽しみ方もできたのです。海外の方も、日本の初心者も既存の文楽ファンも楽しめる、「三方良し」の工夫と思いました。また、いままでの国立文楽劇場の公演では、舞台の上部に字幕が投影され、語られている言葉を文字で確認ができました。掛け言葉や現代人がすぐ脳内変換できない言葉も文字を見ればパッと分かる。ですが、今回はその字幕がありません。イヤホンガイドのアプリを使って各自手元で確認してください(無料)という形です。私も最初は「え、アプリ?」と思いました。SNSでも賛否の否の声が多かったように思われました。客席で使われている方を後ろから見かけましたが、光漏れは気にならず(もともと客席が真っ暗にはならないので)、アラームが鳴ることもありませんでした。私はタブレットで使ってみました。床を含めて舞台全体を俯瞰して鑑賞したい際に膝下に視線を落とすとその分舞台が観られないので前方の椅子にホルダーがあるとより便利だなと思われました。最前列に座ると舞台上に表示されていた字幕を見るのに顔を上に上げねばならず字幕は見づらかったのでそう言う時は膝下で確認できる今回の仕組みは便利!膝元に置いて、人形の動きを追いつつチラッと文字を見るなら十分です。過渡期だと思いますが、今後ブラッシュアップすれば良いサービスになりそうです。
さて、ようやく演目の感想です。
今回は各プログラムで日本のシェイクスピア近松門左衛門ゆかりの作品が上演されています。
◇Aプロ 「恋女房染分手綱」「日高川入相花王」
1751年作の『恋女房染分手綱』、「重の井子別れの段」は近松が書いた『丹波与作待夜の小室節』からほとんど変わっていないと言われている物語です。
関東への嫁入りを嫌がり駄々を捏ねて泣く姫君をなんとかなだめたいというところに、姫君と同じ年頃の馬子・三吉が連れてこられます。彼の持つ東海道双六で遊んで機嫌を良くし、一行は安堵。姫の乳母重の井はふと気になり三吉の身の上を聞いてみます。そうして明らかになったのは産み落として別れた子であったと言うこと。しかし嫁入り途中の姫君に馬子の乳兄妹がいるなど言語道断。抱きしめこれから家族として…などということはできません。息子・三吉は母にすがり行方不明の父も探し出しともに暮らしたいと泣きます。拒絶するも不憫で金を渡しますが三吉はそれを泣きながら突き返し、門出の馬子唄を歌いながら別れるのでした…親子の情愛に胸が熱くなります。登場人物が少なく、前後の脈絡なくても観客が混乱しません。初心者にも勧めです。
続く「日高川入相花王」は、安珍清姫伝説から。映画「国宝」で「京鹿子娘道成寺」が取り上げられましたが、こちらはそこにつながる発端の方。清姫の一途さに胸がギュッとなる「渡しの場の段」です。清姫が恋と怒りの執念で鬼の形相となり川を泳ぎ渡るクライマックスは圧巻。清姫の顔が一瞬で変わる人形ならではの仕掛けはオペラグラスで凝視したいところです。
◇Bプロ 「心中天網島」
近松門左衛門の世話物の傑作とされる作品。実際にあった心中事件を題材に書かれました。紙屋の治兵衛と遊女小春。周囲の思いやりの中でにっちもさっちもいかなくなり死を選ぶことになります。治兵衛が小春に刃を突きつけた瞬間、私の後ろから声にならない叫びが聞こえました。私も人形による人形殺しを目撃したような、その瞬間治兵衛の人形が己の意思で動いて見えたような、そのような感覚になりましたので「うんうんその気持ちよくわかる!」と振り向いて握手したいくらいでした。海外の方たちで、終演後アンケートを書く姿も楽しそうでした。「BUNRAKUっていう素敵なパペットミュージカルを観たのよ!」と周りに伝えてくださるに違いないと、ひとり合点しています。
◇Cプロ「曾根崎心中」
映画「国宝」を観た知人が「曾根崎心中をちゃんと観たくて歌舞伎の公演を探してもやってなかった」とぼやいた瞬間、「それ、いま国立文楽劇場で観られますっ!!」と熱烈プレゼンをしたのがこのCプロでした。
人形浄瑠璃のために近松門左衛門が書いた大ヒット作。傾きかけた竹本座の経営が持ち直し、曾根崎心中をきっかけに心中が増えたと書かれるほどの社会現象を巻き起こしました。最終的に幕府は心中という言葉すら禁止し、相対死した場合の葬儀も禁止に。もちろん心中を描く読み物や芝居など一切が禁止となります。現行のは昭和に復活したものですが、私の知人のように曾根崎心中に関心を持っている方は大元の人形浄瑠璃によるお初徳兵衛の物語を味わってください。私もこのお初徳兵衛の悲恋は大好きで今回最前列の右側ブロックで堪能しました。太夫の声と三味線が頭上後方から降ってくるようで私としては没入感抜群のポジション。二人が堂島から天神の森へ向かい果てる場面は哀しくも美しい世界でした。
人形浄瑠璃文楽は世界に誇る日本の人形劇。人形のミュージカルと言っても良いでしょうか。それもシンプルかつ複雑な!ぜひその魅力を味わってください。