『本当にあった話(の話)』
  2026年10月2日、テアトル梅田ほかで。
鴻池留衣の同名小説をもとに、ある劇団が舞台を完成させるまでの一ヶ月を描いた人間ドラマである。
 ある日、世間を騒がせた事件をベースに、舞台劇が制作されることになった。演出家の加藤(佐々木蔵之介)と、脚本家の垣内(小池栄子)は、オーディションで米良(黒木華)と夛田(水上恒司)を選び、制作を開始するが、稽古場にはなぜか暗いムードが漂う。世間から評価の高い演出家の加藤が、劇団の中で専制君主のように振るまい、ブレーンの抑えがきいていないのだ。長い下積みの末に役を掴み、この舞台に賭けていた米良が、加藤の横暴に苦しむ一方で、サラリーマンから俳優の道に足を踏み入れた夛田は、稽古場という環境にすんなりと溶け込んで行く……。
 周りの人間を徹底的にコントロールしようとする加藤と、加藤を上回るほどの暴力性を内に秘めた夛田。夛田に分する水上恒司が、二面性のあるキャラクターを快演して迫力があった。劇中では、稽古場という小さな宇宙で、俳優達が芝居のセリフを反復し、その1人ひとりの人生の一瞬が映し出される。どんな舞台が完成するかというよりも、劇団内部の不毛な人間関係に焦点を絞り、崩壊への道のりを描く不条理劇である。厳しい状況の中、自分の進むべき道を手探りで探す米良を演じた黒木華、支配に固執する加藤に扮する佐々木蔵之介ら、脇を固める俳優達も、紋切り型ではない複雑さを持つ人物像を、のびのびと演じている。監督は本作が商業映画デビューの武井佑吏。
(2026年/120分/日本)
配給 東京テアトル、murmur
©️鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
監督・脚本・編集 武井佑吏
出演 水上恒司、黒木華、山下美月、大東駿介、山本浩司、小池栄子、佐々木蔵之介

 

error: Content is protected !!