「襲名」
2026年9月25日公開
歌舞伎の大名跡である「市川團十郎」の第十三代襲名をめぐる、三池崇史監督初めてのドキュメンタリー映画、足跡などを。9月2日から12日間にわたって開催された第83回ヴェネ チア国際映画祭の「Cinema&Award」で最優秀賞に輝き世界でも注目が高まったいる。
くしくも、映画が公開されてすぐの2026年10月3日から、京都・南座で「市川團十郎特別公演」を上演(25日まで)。昼の部では、成田屋(屋号)のお家芸である「勧進帳」の弁慶を演じる。「七世市川團十郎が荒事として構成した狂言。弁慶は、祖父の十一代目も父の十二代目も向き合って生きてきたのだと、團十郎を襲名してからは改めて感じながら勤めています。今回は新之助が父の『勧進帳』を同じ舞台から勉強するために太刀持を勤めたい、と自ら志願しました。私自身も勤めたことがない役ですが、この機会に父として家の芸を伝える役割を果たしたいと考えています」。南座公演に向けての会見で、こう話すほど思い入れのある演目。この映画は、冒頭に同じくお家芸の「助六由縁江戸桜」での助六で始まり、「勧進帳」での弁慶が「花道」を〝飛び六方〟で颯爽と花道から去っていく姿で幕を閉める。まさに、これぞ團十郎!という趣向だ。
偉大な先人の「名を継ぐ」という歌舞伎界など数少ない世界しか存在しない「襲名」。この映画は2020年5月に華やかに盛大に行われた「襲名発表記者会見」を皮切りに、團十郎、新之助らの数々の舞台映像はもちろん、楽屋や舞台裏としって、ふだん見ることができない場所での「素顔」もとらえられている。それから6年が経った現在、すっかり名跡が定着し、活躍しているのことからすると、いささか「時が逆戻り」した気分なのは確かだが、そこには、「コロナ禍」という予想もいなかった〝ノンフィクション〟が待ち構えていたことで、結果的にはよりドラマチックになった。
晴れやかに上演されるはずだった「襲名公演」は、2020年4月7日、政府の緊急事態宣言を受けて公演の無期延期を発表。観客の前で演じるという俳優の日常が断たれることになった。それから約2半にわたって、もどかしい日々が続いた…。そしてようやく、2020年10月31日に東京・歌舞伎座で幕を開いた「襲名披露記念歌舞伎座特別公演(11月1日まで)。「助六由縁江戸桜」「勧進帳」、そして長セリフをよどみなく語る「外郎売(ういろうり)。また、出演者がずらりと舞台上に並んだ「口上」では、これもお家芸で疫病退散を願う独特の見得「睨み」も披露。この仕草に観客は拍手喝采! 考えてみると、歌舞伎になじみのない人にとっては、見たこともない光景だろうが、lpれこそ「歌舞伎独特の世界」。
一方、新之助の様子もほほえましくもあり、いまの頼もしい姿を予測できる。襲名公演を前にした最後の公演で奮闘した父が病気休演したことで、注目を一身に浴びることになる場面。緊張感がありながらも、周囲にはそれをあまり伺わせないようにつとめる姿は「大物」を予感させる。
映画「国宝」の大ヒットがあるなか、歌舞伎に詳しい人は言うまでもなく、ヒューマン・ドキュメンタリーとしても一見の価値がある。
〈キャスト〉市川團十郎、市川新之助。
〈ナレーション〉杏
〈スタッフ〉監督・三池崇史。祝幕・村上隆。製作・紀伊宗之。プロデューサー・田中傳次郎、坂美佐子。制作プロダクション・オー・エル・エム PlanD。協力・日本俳優協会。特別協力・松竹。配給・K2 Pictures
©2026 K2 Pictures・3Top
【南座 「市川團十郎特別公演】
昼の部(午前11時30分)
◇其俤対編笠 鞘當(さやあて)
◇与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店
◇歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
夜の部(午後4時)
◇義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)鳥居前
◇英執着獅子(はなぶさしゅうじゃくじし)
◇歌舞伎十八番の内 七つ面(ななつめん)
◇ご挨拶(ごあいさつ)
◇荒事 大力天無双(あらごと だいりきてんのむそう)
市川團十郎 市川新之助『歌舞伎十八番の内 押戻し』相勤め申し候
日刊スポーツ新聞社文化部記者を経て、1990年に独立。 新聞や雑誌などで執筆活動を続けている。主な著書には 『宝塚BOYS』 として舞台化もされた 『男たちの宝塚』 や 『宝塚 幻のラインダンス』 『少女歌劇の光~ひとときの夢の跡』 (共著) 『河内家菊水丸 秘宝の舘大全集』ひとときの夢の跡』 (共著) 『河内家菊水丸 秘宝の舘大全集』(監修を担当)などがある。FM大阪 「おとなの文化村」 出演 (終了)、文化庁芸術祭 大衆芸能部門 (関西) 審査員を歴任。 日本映画ペンクラブ会員。 日本演劇学会会員。 なにわ名物開発研究会会員。シネマコミュニケーター講座 講師などをつとめている。