「雌鶏(めんどり)」
2026年9月25日公開
1羽のニワトリの挫折や愛などを描いた〝ヒューマン・ドラマ〟。多くの動物には「カワイイ!」という形容詞がすっかり定着しているが、この映画は「カワイイ!」ではなく、懸命に生きる「生き物」を、フィクションという形式で描いている。しかも、近年なら比較的、簡単であるCGやAIを使うことなく、8羽の個性的なニワトリの〝演技〟を巧みに編集して、ヒロインを生み出している。ちなみに、この8羽はエンドクレジットにしっかりと刻まれている。
われわれがごく普通に食べている卵や鶏肉だけれど、よく考えてみると…。物語は、他のニワトリとは異質な色合い‘(黒い羽)のため疎外されたことで、ニワトリが生き延びたことで、旅が始まる。もちろん、人間も登場するが、あくまでも脇役で、カメラはニワトリの顔のクローズアップなどとらえる〝ニワトリの視線〟で展開していく。正直言って、人間ほど微妙な表情はわからないが、それでも編集などによって感情が伝わってくる。例えば、淡い恋心。ニワトリ小屋で出であった雄鶏(おんどり)で初恋を知り卵を産み、〝我が子〟を大切に育てるが…。そうした設定を、ニワトリの無数のアップから取り出すことで感情を作り上げている。しかし、丁寧に厳しい現実が待っている…。
その一方で、犯罪事件に巻き込まれるアクション・シーンも。このあたり、ヒューマン・ドラマからはちょっと外れてきるという気もしないではないが。この映画のバックボーンを知ると、わからなくもない。脚本・監督をつとめたパールフィ・ジョルジは、〝ハンガリー映画界の鬼才〟と呼ばれている存在。しかし、政治的な理由から支援が打ち切られてしまったことで、海外で映画を作らないといけなくなった。この映画も、ギリシャで製作、ギリシャ語で描かれている。そんなことを知ると、他者とは違うモノへの偏見、差別。現代社会への風刺などを感じ取れる「奥の深い」作品だ。
〈ストーリー〉養鶏場で生まれ育った雌鶏が、出荷用トラックから脱走!人生初の自由を手に入れた彼女は、刺激と危険に満ちた世界を走り抜け、ワケあり一家が暮らす家へと辿り着く。庭に建つニワトリ小屋で新生活を送るなか、初恋を知り、初めて産んだ卵を温め育てようと決意する。ところが大切な卵は人間に回収されてしまう過酷な現実に直面。人生とは?生きるとは?我が子がヒヨコになる日を夢見て前に進もうとする彼女に、思いがけない運命が待ち受けていた…。
〈キャスト〉雌鳥(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、エニクー、ノーラ、アネット)。ヤニス・コキアスメノス、ディアコパナジオティ、アルギリス・パンタザラス、エレニ・アポストロポウロウ、バメルニー、アントニス・シオシオポウロス、アントニス・カフェゾポウロス。
〈スタッフ〉監督・パールフィ・ジョルジ。脚本・ゾフィア・ルットカイ。撮影・ヨルゴス・カルヴェラス。編集・レーカ・レムヘニュイ。録音・マリノス・アサナスポウロス。音楽・ソーケ・サルボチ。
配給・ハーク/2025/ギリシャ・ドイツ/ハンガリー/96分 ©2025Pallas Film-Twenty Twenty Vison-View Master Film-ZDF
日刊スポーツ新聞社文化部記者を経て、1990年に独立。 新聞や雑誌などで執筆活動を続けている。主な著書には 『宝塚BOYS』 として舞台化もされた 『男たちの宝塚』 や 『宝塚 幻のラインダンス』 『少女歌劇の光~ひとときの夢の跡』 (共著) 『河内家菊水丸 秘宝の舘大全集』ひとときの夢の跡』 (共著) 『河内家菊水丸 秘宝の舘大全集』(監修を担当)などがある。FM大阪 「おとなの文化村」 出演 (終了)、文化庁芸術祭 大衆芸能部門 (関西) 審査員を歴任。 日本映画ペンクラブ会員。 日本演劇学会会員。 なにわ名物開発研究会会員。シネマコミュニケーター講座 講師などをつとめている。