「ジェニー・ペンはご機嫌ななめ」
2026年6月12日公開

これは、〈恐怖映画〉だ。どいっても暗闇からドッキリ!!でもなく、血みどろで怖がらせるわけでもない。普通の人たちが、内面に鬱屈した「闇」をさらけだし、ぶつかり合う、ある意味ではリアルに怖い話。それだけに、俳優はことさらオーバーな演技ではなく、われわれの周りにいるような自然なたたずまいを醸し出す必要がある。この映画で、激しく対立する2人の老人に扮しているのは。ジョン・リスゴーとジェフリー・ラッシュ。どちらも、長いキャリアのなかでさまざまな映画に出演しているが、やはり〈クセのある人物〉が印象的。私にとって、ジョン・リスゴーは、斬新なサイコ・スリラーを作り続けたブライアン・デ・パルマ監督による、児童心理学者を演じた「レイジング・ケイン」(1992年)、それとは対照的に寡黙ななかに野心を秘める教皇候補者を演じた「教皇選挙」(2024年)。一方、ジェフリー・ラッシュは、一般的には「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(2003年~)での海賊長でおなじみだが、なんといっても天才的なピアニストを演じた「シャイン」(1996年)だろう。そんな2人が出演を即決したというこの映画、なるほど!俳優として、芝居のしどころがあると納得できる。ほぼ全編を通じて、老人ケアハウス内で出来事を描いている。そうした「閉ざされた空間」を設定することによって、対立がさらに凝縮され、エスカレートしていく。設定は違うものの刑務所内を描いた「カッコーの巣の上で」(1975年)、雪で閉ざされたホテルを設定にした「シャイニング」(1980年)。象徴的なシーンは、2人がテーブルに向かい合うなか、テーブルのしてで、リスゴーが演じるクリーリーが、ラッシュ扮する車椅子のステファンの足を蹴り続ける。表面上は穏やかだが、「水面下」では激しい怒りをぶつける。これほどわかりやすい構図ではないものの、われわれの日常生活、人間関係ではよくあること。そんな恐怖を浮き彫りにしている。
もう1人の「主人公」は、タイトルでもあるジェニー・ペン。クリーリーがいつも手に装着している人形。ある資料によると「ドールセラピー」という、人形を使って感情や想像力を引き出す療法があるという。人形に家族や友人をダブらせてコミュニケーションすることで癒されるというのだ。クリーリーにとって、それがジェニー・ペン。彼にとっては愛おしいのだが。眼球がないソレは不気味でさえある。映画のために作成したのは「ミーガン」(2022年)などを手掛けた人形クリエーター、ポール・ルイス。ホラー映画の「チャイドプレイ」(1988年~)に登場する人形・チャッキーにも共通する「可愛いからこそ怖い」を表現、この映画に恐怖を増幅している。
なぜ、クリーリーはそんなにステファンを憎むのか…。標的を作ることで勝手なカタルシスを感じるのは「イジメの論理」だが、その根底にあるのは、自分の人生と他人の人生との比較? なかなか解決できない現実を、巧みなフィクションとして描いている。
〈ストーリー〉正義感が強く、法を守る強い信念とプライドで長年判事を努めてきたステファン・モーテンセン(ジェフリー・ラッシュ)は病に倒れ、車椅子生活を余儀なくされ、郊外のケアハウスに入居する。そこにはジェニー・ペンという名のドールセラピー用の指人形を手に陰湿ないじめで老人たち支配するデイヴ・クリーリー(ジョン・リスゴー)という入居者がおり、彼と敵対したステファンはいじめの標的にされてしまう。繰り返されるデイヴの理不尽で屈辱的な嫌がらせ、そしてエスカレートする邪悪な行為。正義のために戦い続けてきた男の人生最後の戦いは、想像を絶する死闘と化していく…。

〈キャスト〉ジェフリー・ラッシュ、ジョン・リスゴー、ジョージ・ハナレ、イアン・ミューン、ヒラリー・ノリス、ホリー・シャナハン、ナサニエル・リーズほか。
〈スタッフ〉監督:ジェームズ・アッシュクロフト。脚本:エリ・ケント、ジェームズ・アッシュクロフト。原作:オーウェン・マーシャル。製作:キャサリン・フィッツジェラルド、オーランド・スチュワート。製作総指揮:ジェームズ・アッシュクロフト、エリ・ケント。撮影:マット・ヘンリー。音楽:ジョン・ギブソン。音楽スーパーバイザー:アミン・ラマー。編集:グレッチェン・ピーターソン。プロダクション・デザイナー:ザーラ・アーチャー・ミノーグ。衣装:ガブリエル・スティ-ヴンソン。
ライト・イン・ザ・ダーク・プロダクション/ブルースキン・フィルム
協力:ニュージーランド・フィルム・コミッション/ヒンターランド
2024年/ニュージーランド/英語/カラー・ビスタサイズ(1:1.85)/104分/映倫:G/日本語版字幕:松浦美奈/配給:エデン
©2024 Hyenas Rule Ltd

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