「てっぺんの向こうにあなたがいる」
2025年10月31日公開
吉永小百合にとって124本目の映画出演。1959年、「朝を呼ぶ口笛」でデビューいして以来、数多くの青春映画でさわやかなヒロインや「ガラスの中の少女」「キューポラのある街」などでの懸命に生きる少女を演じた。年輪を重ねるなかで、「動乱」を大きな契機に、近年では、健気に生きる女性像を演じていて、まさに「映画女優」という言葉がふさわしい芸能生活。昔話になるが、100本目という節目の映画「つるー鶴」(1988年)の公開を前に、東京の帝国ホテルで単独インタビューをする機会があった。映画のことを話すなかで、「なぜ、舞台には出られないのですか?」と聞いた。その答えはいまも鮮明に覚えている。「毎日、楽屋の窓から外の風景を眺めるのは…」。そう彼女はアウトドア派なのだ。ラグビー好きは有名で、水泳はいまも続けているという。
この映画は、女性初のエベレスト登頂に成功した田部井淳子(2016年没)がモデルになっている。「わたしも昔は〝山ガール〟だったんですけど、スキーに転向してほとんど登っていなかった」という登山に挑戦している。
吉永が田部井にラジオ番組で初めて会ったとき。吉永が「登山家の…」と紹介すると田部井は「いいえ、登山愛好家です」と言ったという。このエピソードが、田部井、そして彼女をモデルにしたこの映画のヒロイン多部純子の人柄を象徴しているように思える。タイトルにある「てっぺん」は登山での頂上を意味しているだけではなく、人生で目指している「てっぺん」。それは有名になることや名声ではない。この映画は、のんが扮する若い頃の純子がエベレストの「てっぺん」を目指して成功。しかし、それは偉業であると同時に、仲間を失う不幸でもあった。そのことを現在と交錯しながら描いているが、「サクセスストーリー」ではなく、その後に「有名人の子供」というなかで反発する息子、そして病に冒される姿が丹念に描かれている。とはいっても。涙、涙のドラマチックな描写でなく、そんななかでも純子は自分の夢「てっぺん」を明るく、懸命に探していこうとする。
〝普通の山〟を佐藤浩市が演じる夫と一緒に登る純子。かつてはなんでもなかった登山道、高さが病のためにしんどくて、「ここでやめておく」と言う。しかし、2人が眺めた風景こそ、夫婦で歩んできた「てっぺん」だったのかもしれない。
〈ストーリー〉1975 年、エベレスト山頂に向かう1人の女性の姿。一歩一歩着実に山頂(てっぺん)に向かっていくその者の名前は多部純子。日本時間 16 時 30 分、純子は女性として初の世界最高峰制覇を果たした。しかしその世界中を驚かせた輝かしい偉業は純子に、その友人や家族たちに光を与えると共に深 い影も落とした。晩年においては、余命宣告を受けながらも「苦しい時こそ笑う」と家族や友人、周囲をその朗らかな笑顔で巻き込みながら、人生をかけて山へ 挑み続けた。登山家として、母として、妻として、一人の人間として…。 純子が、最後に「てっぺん」の向こうに見たものとは―。
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる』製作委員会