「爆弾」
２０２５年１０月３１日公開
ワーナーから試写会に招待されて観た。原作は「このミステリーがすごい! ２０２３年版」(宝島社)「ミステリーが読みたい!２０２３年版」(ハヤカワミステリマガジン２０２３年1月号)で1位を獲得した、呉勝浩による同名小説。私自身は未読であまり知識をもたずに観た。
ある男が自動販売機を蹴ったということで、警察に連行されたことからドラマが始まる。「スズキタゴサク」と名乗るその男を演じているのが佐藤二朗。コミカルな役柄からシリアスなものまで、さまざまな役柄を演じている彼だが、市井の人物というのが多く、このシチュエーションでもただの「軽犯罪」を犯した男のように見えたのだが…。染谷将太が扮する刑事との取調室でのやりとりも、最初はそういった空気だったのが、「ある予言」をしたことで事態は一変。さまざまな人を巻き込む大事件へとだんだんエスカレートしていく様子が丁寧に描かれていく。
「スズキ」の印象も、われわれの近くにいる〝普通のオジサン〟から、さりげない口調の裏に深い信念、怨念をいだいている得体の知れない人物に思えていて、恐ろしくなっていく。取調室で聞き取りをする警察側は翻弄され、から、山田裕貴が演じる類家刑事たちにバトンタッチ。謎を解くのを得意にする類家を前に、「スズキ」は爆弾事件に関連する９つのクイズを出す。このあたり、ある意味では謎解きゲームでもあるのだが、私には（おそらく多くの観客も）ヒントなどが難しく、やや強引？でもあって、そのゲームには〝参戦〟できなかったのは残念。
閉ざされた空間（取調室）と爆弾がどこかに仕掛けられているだろう街、それをしらない道行く人々と、静と動の映像が交互に登場してハラハラドキドキ度は上がりっぱなしになっていく。さまざまな方法で爆弾が破裂してしまうのだが、その描写がリアル、さらに方法も綿密で「模倣犯が出ないか？」と心配にさえなった。他にも登場する人物がすべて何かを秘めているように思えてくる。映像でおなじみの人も多いが、歌舞伎俳優の片岡千之助（父は片岡孝太郎、祖父は片岡仁左衛門）も重要な役で出演していて注目。
もちろんのこと、実際に起こらないことを大前提に、ミステリー映画としての醍醐味はたっぷりと味わえる。
〈ストーリー〉酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された一人の謎の中年男(佐藤二朗)。「スズキタゴサク」と名乗り、名前以外の記憶をすべて忘れたという男は、取り調べの最中にとぼけた表情でこう呟いた。「霊感だけは自信がありまして。１０時ぴったり、秋葉原で何かあります」。野方署の刑事・等々力(染谷将太)や伊勢(寛一郎)が酔っ払いの戯言だと呆れ果てる中、秋葉原のビルが爆発。青ざめる2人を前に、スズキは淡々と「ここから3回、次は1時間後に爆発します」と言い放つ。前代未聞の被疑者の取り調べに乗り出したのは、警視庁捜査一課の刑事・類家(山田裕貴)と清宮(渡部篤郎)。スズキは刑事たちの問いかけをのらりくらりとかわしつつ、次第に爆弾に関する謎めいた“クイズ”を出し始める。取調室で心理＆頭脳戦が続く中、沼袋交番勤務の倖田(伊藤沙莉)と矢吹(坂東龍汰)は爆弾捜索に駆けずり回る。一体、スズキの目的、正体とは…。
〈キャスト〉山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、 佐藤二朗
〈スタッフ〉監督・永井聡、脚本・八津弘幸、山浦雅大。主題歌・宮本浩次「I AM HERO」（UNIVERSAL SIGMA）
配給・ワーナーブラザース映画
（C)呉勝浩／講談社 2025映画『爆弾』製作委員会
