「見はらし世代」
2025年10月10日公開
カンヌ国際映画祭・監督週間に、日本人史上最年少の26歳で選出された団塚唯我監督作品。母を亡くし、父への不信感を抱いて成長した青年の心理を、瑞々しいタッチで描きあげている。
胡蝶蘭の配送運転手として働く蓮は、6つ違いの姉と暮らしている。姉はまもなくある人と結婚する予定で、引っ越し準備に大忙しだ。2人はどこにでも居そうなきょうだいだったが、ひとつだけ、子供の頃に母親を亡くすという共通の傷を抱えていた。そんな中、蓮は配達先で長く疎遠になっていた父とバッタリ出くわす。
父親の初を演じているのは『首』『スオミの話をしよう』『ベートーヴェン捏造』などで、性格俳優として名脇役として活躍してきた遠藤憲一。本作では主人公のその後の人生を暗示するようなクセの強いシリアス路線で、準主役級のキャラクターを演じる。初の職業はランドスケープデザイナーで、大きな開発事業に人生を捧げている。「仕事か家族か」の選択を突き付けられれば、仕事を選ぶ野心家の父と息子が対峙する場面が山場なのだが、団塚監督はそこにサプライズ・シーンを仕掛けて、見る者を引き込んで行く。
街の大規模再開発と、家族の変容とを重ねながら、監督自身の男性観、女性観をぶつけたシナリオは26歳の本音を語っていて、ドライだが人生と人への好奇心に溢れている。映画界にも仕事より人生を楽しむ世代の登場、ということかもしれない。これからもちょっとしたサプライズを届けてくれそうなクセ者監督である。主人公に映画『さよなら ホヤマン』の黒崎煌代。姉役にテレビドラマ『いつか、無重力の宙で』、映画『福田村事件』『秒速5センチメートル』などの木竜麻生。
(2025年/115分/日本)
配給 シグロ
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