韓国ミュージカル ON SCREEN「エリザベート」
       2025年7月11日~24日

 今年のトニー賞ミュージカル部門で作品賞、演出賞、主演男優賞など6部門n輝いた「Maybe Happy Ending」。実はこの作品は韓国発、映画や音楽などのコンテンツが世界的注目されている韓国が、演劇でもそのパワー、成熟ぶりを見せつけた。
 そんななか、韓国で上演された日本でもなじみのある5作品(別項)が、映画館で観られる「韓国ミュージカル ON SCREEN」シリーズがスタートした。第1弾の「エリザベート」は1992年にオーストリアのウィーンで初演、日本では1996年に宝塚歌劇版が、2000年には東宝版が初演され、現在も上演を重ねている人気作。韓国でも201から繰り返し上演されている。
 私にとっても、取材などを通じてとても思い出深いミュージカルだ。宝塚雪組で初演される前、トート(死神)を演じる一路真輝、エリザベート役の花總まり、そしてその後も一貫してこの作品の演出に関わっている演出の小池修一郎の3人に、演劇雑誌への取材をしたことがある。原典はタイトルどおり、オーストリア皇妃エリザベートがメインなのだが、トップ男役を軸にする宝塚では、死神(トート)を前面に打ち出すということなど、誰もがその後の人気が想像しきれないなかでのコメント。そんななか、宝塚のために
ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(作曲・編曲)が新たな楽曲を作ってという話が飛び出し、私も一緒に音源を聴いた記憶がある。それが、「愛と死の輪舞曲(ロンド)」だった。東宝版も人気を呼び、ウィーン版のガラコンサートが上演される際に来日したシルヴェスター・リーヴァイに、「そこに『愛と死の輪舞曲』も歌われるのか?」と尋ねたところ、原典を尊重するために「それはない」とのことだった…。
 そうしたいろいろな思い出を振り返りながら、スクリーンで韓国版を観た。まず、注目していた「愛と死の輪舞曲」は劇中に登場、世界各国で上演されていくなかで、違和感なく採用されたのだろうと、うれしくもあった。言うまでもなく、ストーリーは同じ、ただし、メイクやコスチュームをはじめ、どこに〝重点〟を置いて描くか。お国柄もあるのか、見慣れている作風とは濃淡が違っていて、興味深かった。
 まずは、メイとコスチューム。上演を重ねるたびに華麗に妖しくなっていく日本版トートだが、少なくてもこのバージョンは「シンプル」。意外にもラストはかえって宝塚風のフィナーレにも思えた。また、ストーリテラーのルキーニには髭はなくて〈濃く〉ない。むしろ、キャストのイケメンぶりを生かそうという姿勢にも感じた。
 そうした外観はともかく、大きな違いは、宝塚版から発した日本バージョンはトートが主役で、エリザベートとの危うい恋が描かれている。それに比べ、この2人にヨーゼフが加わって、その不思議な三角関係がドラマになっている。ヨーゼフを演じた俳優はオペラ経験があると予想できるほどの圧倒的な歌唱力、年輪を重ねた設定により説得力がある。私の好きな晩年のエリザベートとヨーゼフがデュエットする「夜のボート」はたっぷりと描かれていて、胸に迫った。
 客席で「キッチュ」を歌うルキーニは黒いマスクをしていて、それを熱く見る観客にもマスク、というコロナ禍で撮影されたことがわかる映像も、リアルで臨場感があった。
 これはあと、4作品も見逃せない。
〈ストーリー〉煉獄の裁判所、そこでは100年前にオーストリア皇妃、エリザベート(オク・ジュヒョン)を暗殺したルイジ・ルキーニ(イ・ジフン)の審判がおこなわれていた。暗殺の動機を問われたルキーニは「彼女が望んだことだ!彼女は“死”と愛し合っていた」と答え、時は19世紀半ばへと遡る。自由を愛した美貌の皇妃、エリザベートと彼女を見つめる“死”トート(イ・ヘジュン)、夫のオーストリア皇帝、フランツ・ヨーゼフ(ギル・ビョンミン
〈スタッフ〉脚本・作詞:ミヒャエル・クンツェ、作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ、韓国語作詞:パク・インソン、キム・ムンジョン、クォン・ウンア、演出:パク・ジェソク。2022年/韓国/カラー/162分/ビスタ/5.1ch
©2022 EMK Musical Company, All Rights Reserved

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


error: Content is protected !!