『「桐島です」
2025年7月5日から第七芸術劇場、元町映画館
7月4日から京都シネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIXあまがさき
偽名で神奈川県内の土木関係の会社で働いていた男が、自分は指名手配中の桐島聡であると名乗って病院で亡くなったのが、2024年のこと。桐島聡容疑者は1970年代の連続企業爆破事件に関与したと見られる人物だ。本作はこの人物の、約半世紀に渡る謎に包まれた逃亡生活を描いている。
ドラマを見ていると桐島聡という人物は、日本企業による徴用工の労働問題に憤りを感じながらも、過激な武装闘争自体には疑問を持っていたのではないか・・・と、そんな風に思えてくる。日々の肉体労働を淡々とこなす彼の描写の中に、人を傷つけることをよしとする雰囲気は無いからだ。在日コリアンの若い同僚・たけしに大人として何かを伝えようとして、うまく伝えられずに悶々とするエピソードは象徴的だ。
優しく鋭い社会観察眼を持つ梶原阿貴のシナリオは、桐島役の毎熊克哉の中から孤立の痛みを引き出していく。彼が趣味で音楽にのめり込んで行くシーンには、人と繋がりたいという人間の自然な欲求が滲むがその想いは叶わない。主役に扮する毎熊克哉の内面からあふれ出す若々しさが、画面に一層の悲しさを添えた。
翻って今の日本に新たな悲劇の種は無いのだろうか。劇中、主人公はニュース番組を見て怒っていた。気鋭の脚本家の視線の先には、桐島聡個人の身辺雑記よりもっと大きなテーマがあると感じさせる一作である。監督は『夜明けまでバス停で』で第77回毎日映画コンクール・日本映画優秀賞受賞の高橋伴明、第20回大阪アジアン映画祭・クロージング作品。
(2025/日本/105分)
配給 渋谷プロダクション
© 北の丸プロダクション