「フロントライン」
2025年6月13日公開

ワーナー・ブラザースから招待を受けて、試写を観た。
世界中を恐怖に陥れた新型コロナウィルス(COVID―19)。「ソーシャルディスタンス」が新しい社会常識として普及し、会いたい人とも会えず、行きたい所にも行けない辛く不自由な生活を強いられた。それどころか、悲しいことにコロナによって亡くなった人たちもいて、世界中の誰にとっても、「空白の約4年間(2019年~2023年)だった。
この映画の題材になった2020年3月に起こった豪華客船(乗客乗員3711人)内でパンデミックが発生した実際の出来事。2019年12月30日に中国による原因不明のウィルス性肺炎の発表からこの出来事など、当時頻繁にニュースが流れてはいたが、私自身はまだまだ他人事のように見ていた。しかし、〈姿がよく見えない〉不気味なそれが、ひたひたと、自分や周囲の人々にも忍び寄ってきた…。
パンデミックをテーマにした映画は、洋画「アウトブレイク」(1995年)、「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2017年)、邦画「感染列島」(2009年)など数々作られている。ドキュメンタリータッチやホラーチックな娯楽作と、さまざまな切り口ではあるものの、それらは「感染」すること自体の恐怖を中心に描いている。一方、この映画(オリジナル脚本)はこれまでとは「違う視点」で描かれていて、自分がそこにいるようにぐいぐいと引き込まれていく。得体の知れない病原体の脅威はもちろんのことだが、それに関わる人々の心理がまた恐ろしかった。この映画に描かれた「恐怖」は大きく分けて3つある。
まずは、パンデミックそのものの。豪華な船旅を楽しんでいた乗客たちのうち10人の感染者が確認されたことで運命が一転、感染の恐怖に冒されながら、船内での隔離が強いられる。この作品では、乗客たちに親身に接するフィルピン人の女性クルー。夫が感染したアメリカ人夫妻。そして、両親が陽性のため子供だけで船内に留まる幼い兄弟などが登場する。こうした〈閉ざされた空間でのドラマ〉では、映画「グランドホテル」(1932年)を基にする〝グランドホテル形式〟をとりがちだが、この映画ではあえて、そうした人々をことさら詳細に描かず、出来事の推移に重点を置いている。
第2の恐怖は、「感染」をめぐって、あからさまになる人間の本質。人間ドラマの要素で重点を置いているのが、パンデミックと最前線=フロントライン=で戦った災害派遣チームのメンバーたち(小栗旬、窪塚洋介、池松壮亮)と厚生労働省職員(松坂桃李)。発端は、使命感から得体の知れないことに関わることになった彼らは、少なくても最初のうちは「ヒーロー」ではなかった。それが次第に「正体」がわかり始めると、文字通り生死をかけての戦いに挑むのだった。そんななかで巻き起こるのが、「偏見」という抑えようもないような人間の性(さが)。尊敬すべき彼らや医療従事者に対して「感染」を恐れるあまり、その家族まで接触を敬遠する現実があった。この作品には、そうした実際に起こった現象もとらえている。
そして、第3の脅威は、それを報道し続けるマスコミのスタンス。テレビ局のニュースキャスタ(桜井ユキ)は、客船をのぞむ岸壁に張り付き乗客らの側面を探ることに躍起になる。我々はそうした取材で状況を知る重要な役割だが、スクープを追い求めるあまり、生活人としての自分を忘れてしまう危険性もある。キャスターの心境の変化で、そうしたリアルな感情を浮き彫りにしているのが救いだ。
そしていま、パンデミックも収拾の方向に向かいつつあり、街中では話題にすることもなく、マスク姿も当時に比べて少くなった。そんななかでの映画製作と公開。「あの時、なにが起こったのか?」「自分はなにを思っていたか?」をいまこそ冷静に振り返る意味もある。
〈ストーリー〉2020年2月、乗客乗員3711人を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客1人に新型コロナウイルスの 感染が確認されていたこの船内では、すでに感染が拡大し100人を超える乗客が症状を訴えていた。出動要請を受けたのは 災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」。地震や洪水などの災害対応のスペシャリストではあるが、未知のウイルスに対応 できる経験や訓練はされていない医療チームだった。
対策本部で指揮を執るのはDMATを統括する結城英晴(小栗旬)と厚労省の立松信貴(松坂桃李)。船内で対応に当たることになったのは結城とは旧知の医師・仙道行義(窪塚洋介)と、 愛する家族を残し、船に乗り込むことを決めたDMAT隊員・真田春人(池松壮亮)たち。 彼らはこれまでメディアでは一切報じられることのなかったにいた人々であり、治療法不明の未知のウイルス相手に 自らの命を危険に晒しながらも乗客全員を下船させるまで誰1人諦めずに戦い続けた。
〈キャスト出演〉小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、森七菜、桜井ユキ、美村里江、吹越満、光石研、滝藤賢一、窪塚洋介
〈スタッフ〉監督・関根光才、企画・脚本・プロデュース・増本淳、配給・ワーナー・ブラザース映画
(C) 2025「フロントライン」
製作委員会

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