「おばあちゃんと僕の約束」
        2025年6月13日(金)
バンコクの下町を舞台に、祖母と孫との温かい交流を描いた人間ドラマの傑作。本作を製作したGDH 559は、大ヒット作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』や、大阪アジアン映画祭で観客の心を捉えた『団地少女』、同じく大阪アジアン映画祭で上映され6月13日から日本でも劇場公開される『親友かよ』等々良質のドラマを手掛けるタイの映画会社である。(ここからはネタばれがあるのでお気を付けください)
ドラマの主人公は、大学を中退しゲーム実況で収入を得ようと考えている青年エム・タナパット。エムはスーパーに務める母親と2人暮らしで、母親に心配ばかりかけているのん気者だ。エムには1人暮らしの祖母メンジュが居るのだが、ある日彼女がガンと診断されてしまう。
エムは祖母の遺産目当てで介護の役割を買って出るが、その下心は祖母に見透かされていた。孫のエムばかりか、祖母の長男次男も大なり小なり利己的な行動をとり始める中、祖母の長女であるエムの母親が、必死にメンジュの介護をし始める。
本作は、脚本家のトッサポン・ティップティンナコーンがコロナ禍に母と共に母方の祖母の介護をした実話がべースになっている。その時トッサポンは、祖母の息子達に比べて自分の母親が、殆ど祖母から遺産が譲られなかったという事実に違和感を覚えたと言う。劇中の祖母メンジュも、実は若い頃懸命に両親の世話をしたにもかかわらず、両親の遺産を兄に持って行かれた人物だ。女の子は文句を言わず黙って介護をするものという意識や、姓が変わったら遺産は分けないといった思想が、男女間での介護の不平等に繋がり、経済格差を生んでいるという設定なのである。
 トッサポン・ティップティンナコーンはこういうシリアスなテーマを、青年の成長譚という誰もが入って行きやすい構造に包んで、パット・ブーンニティパット監督と共にシナリオを開発した。その結果、教条的なところや恨み節のようなところが無い、誰にでも入っていきやすい家族ドラマが完成し、本国タイはもとより、インドネシア、フィリピン、中国、マレーシア、シンガポール、ベトナム、オーストラリアなどアジアを中心に世界各国で山火事のように共感が広がって大ヒット。既にアメリカのミラマックスによるリメイクも決定している。
若く薄情なエムが祖母の闘病を支える中で、少しずつ人間的になっていくところはユーモラスだ。ちょっと頑固な祖母メンジュを演じたウサー・セームカムと、とぼけた孫役のビルキンことプッティポン・アッサラッタナクンのコンビも息があっていて配役も見事。朝5時起きでお粥を売りに行く祖母がエムをしごくシーンはしみじみ心を温める。“早く起きた鳥は虫が食べられる”といった祖母の金言も味わい深かった。「花より男子」のタイ版ドラマでブレイクしたトンタワン・タンティウェーチャクンがエムのいとこ役で出演し、タイの影を表現しているのも見どころだ。
(2024年/126分/タイ)
配給 アンプラグド
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