「星降る街に住む君へ」
2025年7月19日~21日
近鉄アート館
5月14日の製作発表会見を取材
いまではなかなか観たり聞いたりすることがない「上方人情喜劇」。瞬間的なギャグで笑いをとる風潮が強いなか、人と人とが触れ合うなかで巻き起こる哀しみや笑いがじわりじわりと伝わってくる「人情喜劇」を上演しようというのがこの舞台。企画・製作する株式会社ルート(本社・大阪市浪速区)は1998年に設立、現在は舞台や映像で活躍する子役から82歳までが所属する芸能プロダクション。それが、初めて舞台製作に挑むことになった。しかも、出演者全員が同社に所属している俳優。製作発表の冒頭、上野三枝代表はその想いをときおり涙を浮かべながら、こう話した。
「私自身、1つの芝居を観て命を救われたという経験があり、役者の渾身の演技から届いてくるメッセージが私の人生を変えました。もし、芝居を作るなら、それくらいのものを作らないと意味がないとずっと思っていました。そして、2023年秋に高橋恵(作)、上田一軒(演出)による舞台を観て、いい作品が生まれる予感がしたのです」。
これに続いて、出演する俳優10人と高橋恵(作)、上田一軒(演出)がずらりそろって臨席する〝圧巻の記者会見〟となった。顔ぶれは、松竹新喜劇で活躍する曽我廼家八十吉、藤田功次郎、曽我廼家いろは。NHKテレビ小説「おちょやん」のヒロインの少女時代を演じて注目を集めた毎田暖乃ら。バラエティーに富んだメンバーが、それぞれが意気込みを話した。
◇曾我廼家八十吉は「役者人生の集大成にしたいというほどの気持ちで挑みます。松竹新喜劇とはまた違う人情喜劇をどう表現できるか、みんなと話し合いなから作り上げていきたい」
◇毎田暖乃「台本を読んで、心からやさしくておっとりしている子だと感じました。2度目の舞台ですが、リアルでお客さんに観ていただけるのは緊張するけれどうれしいです。」
◇多賀勝一「長い役者人生ですが、記者会見に出席するのは初めて。いまでは、どこへ行っても最年長ですけど、みんなに〈若い〉と言っていただけます」。
◇五代桃華「殺される役、殺される役、だます役が多いのですが、今回はやさしい懐の深い女性を演じます」。
◇藤田功次郎「喜劇というジャンルはものすごく難しい。松竹新喜劇にしても演者も作家もなかなか前に進んでいない。それほど、作り上げるのは難しいもんなんです」。
◇曾我廼家いろは「自分のことより他人のことを思いやる女性を演じます。松竹新喜劇も新しい作品はなかなか難しい状況で、これがいい方向に向かうものになればいいなとも思っています」。
◇河原田俊斗「現役高校生の僕だからできる若くて力強い人物像を演じたいと思います」。
◇小野美音「7歳です。みんなを楽しませる舞台にしたいです。観てください」。
◇小澤ショータロー「会社員を辞めて俳優を志しました。高橋さんの作品は2作に出演していて、心に残るセリフがちりばめられていると思っています」
◇弓塲育美「ルート所属になったのは、このなかでは一番の後輩です。すてきな〈先輩〉がた、みなさんの想いを届けたいと思います」。
また、作、演出の2人は、「人情喜劇」についてこう話した。
◇高橋恵「理性ではわかっていながら情感のところで、やってはいけないことをやってしまうことが、おかしみに繋がるのが喜劇の本質だと思っています。今回は、いると聞かされているけれど、会えていない家族がどこかにいるかもしれない?という実体験をもとにしたイメージが浮かんで、それを祖父と孫の話にしました。多彩なメンバーで、幅広い観客に伝わるように、なるべくわかりやすく書くこと。だけで、奥深くしたいと思って書きました」。
◇上田一軒「ことさらに笑いをとるというのではなく、人間の不完全な部分が愛おしくなるように見えてくるものにしたい。弱さを認めて助け合っていきていく様子が笑いに繋がっていくと思っています」。
〈キャスト〉毎田暖乃、曽我廼家八十吉、多賀勝一、藤田功次郎、曽我廼家いろは、小野美音、河原田俊斗、小澤ショータロー、弓塲育美、五代桃華
〈あらすじ〉定年退職を迎えた新見信吾 (曽我廼家八十吉) は、独り身の寂しさから心に穴の開いたような日々を送っていた。飲み友達である工藤 (多賀勝一)と竹本 (藤田功次郎)との晩酌が唯一の慰めだが、 心の底から気が晴れることはない。ある日、3人はいつものように雪江 (五大桃華) が営む居酒屋で昔話に花を咲かせていた。そこへ突然、「あおい」と名乗る高校生(毎田暖乃) が現れる。 あおいは居酒屋で働く紗枝子 (曽我廼家いろは) の甥っ子がSNSで知り合った友達だった。「私、 おじいちゃんを探しているんです」。あおいは女手一つで育ててくれた母を病で亡くし、この世に身内が1人もいなくなってしまうのではないかという不安から、僅かな情報を頼りに大阪にやってきたという。あおいの話を聞いた3人はそれぞれに、 「あおいが自分の孫なのではないか」と慌て始める。やがて、誰も知らなかった新見の過去が明らかになっていく。
〈キャスト〉毎田暖乃、曽我廼家八十吉、多賀勝一、藤田功次郎、曽我廼家いろは、小野美音、河原田俊斗、小澤ショータロー、弓塲育美、五代桃華
写真=前列右から多賀勝一、曽我廼家八十吉、毎田暖乃、五代桃華。後列右から河原田俊斗、藤田功次郎、曽我廼家いろは、小澤ショータロー、弓塲育美
〈スタッフ〉作・高橋恵、演出・上田一軒、舞台美術・柴田隆弘、音響效果・三好里美、照明・高木里桜、舞台監督・中嶋さおり、演出助手・鎌江文子、宣伝美術・山口良太、チラシ写真撮影・堀川高志、映像撮影編集・飯阪宗麻、写真撮影・ 岡村義之。制作・尾崎雅久
