「大阪・関西万博開催記念 薫風歌舞伎特別公演」
2025年5月11日~25日
大阪松竹座
(5月12日に観劇)
日本語での会話が聞こえるのが珍しい?!がオーバーではなくなってきた大阪・道頓堀界隈。そこにある大阪松竹座で、内外の観光客、なかでも「大阪・関西万博」目当ての人々も呼び込もうというのがこの公演。三部制で上演されるのは、これも歌舞伎、あれも歌舞伎…、なんでもアリ!でさまざまな趣向で古典芸能の懐の深さをアピール。「オール・ザット・ジャズ」ではなく、これは「「オール・ザット・歌舞伎」。
【第一部】
◇「今昔歌舞伎草紙(こんじゃくかぶきぞうし)」
あでやかな日舞から、粋で勇壮な江戸歌舞伎の「お祭り」(中村鴈治郎、片岡愛之助、市川中車ほか)。そして地元・大阪ならではの上方歌舞伎「廓文章 吉田屋」(中村扇雀、中村虎之介、中村壱太郎)の一場面と、1時間で歴史、さまざまな魅力を凝縮。少々、詰め込みすぎではなるが、得した気分になる作品。
〈あらすじ〉出雲の阿国が始めた〝歌舞伎踊〟から、その変遷を日本舞踊家を中心に構成し、また、江戸歌舞伎、上方歌舞伎の魅力を華やかに踊り継ぎ、万博の開催を賑々しく寿く。
◇「脈々奇書異聞 夢窓西遊記(みゃくみゃくきしょいぶん むそうさいゆうき)」
「西遊記」の舞台を桃山時代の京や大坂に移した作品、途中にミャクミャクも登場して、万博に迎えるという趣向も。孫悟空(中村橋之助)や猪八戒(中村福之助)、沙悟浄(中村歌之助)とおなじみのキャラクターに3兄弟が扮している。なかでも、孫悟空の〝ダーク〟具合が濃いのは珍しい解釈だった。
〈あらすじ〉孫悟空や猪八戒、沙悟浄らが歌舞伎のさまざまな敵役や妖怪たちと戦いを繰り広げる。この世を戦ではなく絆によって1つにしようと願う悟空の立てた計画とは…。
【第二部】
◇「千夜一夜譚 荒神之巻(せんやいちやものがたり あらじんのまき)」
「千夜一夜物語」のなかで最も有名な「アラジンと魔法のランプ」の設定を中国に置き換え。安羅仁(中村虎之介)と茉莉花姫(中村壱太郎)の恋模様を軸に描いた作品。幕開けは本来の歌舞伎にはないアラビア風の洋楽が流れ、それから一転、太棹三味線がつま弾かる義太夫へと移行していく。ストーリーはわかりやすく、おなじみの魔法のランプからはジーニーならぬ洋燈の魔神(市川猿弥)も登場して楽しめる。ただし、この第二部だけを観た〝初心者〟は
、まずは歌舞伎の〈本流〉ではなく〈傍流〉と遭遇することになるわけ。むしろ、〈通〉が余裕をもって楽しめる、というものではないだろうか。
〈あらすじ〉三世紀から五世紀にかけて繁栄したササン朝ペルシャの時代にペルシャ王の妻が毎夜、昔話を王に物語る形式でまとめられた説話集。その中から、特に人気のある「アラジンと魔法のランプ」の原作をもとに新作歌舞伎として上演。
【第三部】
◇「湧昇水鯉滝 鯉つかみ(わきのぼるみずにこいたき こいつかみ)」
大正3(1914)年に東京本郷座で初演。主人公が鯉の精と戦う姿をダイナミックに描く。主演の片岡愛之助は制作発表で愛之助が「まるでトライアスロン(3種競技)をやるよう」と表現したが、そのうえをいく11役早替わり。なかでも、大詰めの本水を使った鯉との格闘では、前方の観客には透明のビニールが配られ水除け。ある意味では人気アトラクションに「参加」しているような楽しみもあり、理屈抜きに楽しめる。
〈出演〉中村鴈治郎、中村扇雀、片岡愛之助、市川中車、中村壱太郎、中村橋之助、中村福之助、中村虎之介、中村歌之助 ほか
(C)松竹