「団地少女」
公開日 未定
タイ、バンコクの警察官舎に住む少女達の青春を描いた秀作だ。警察官舎で育ったジェーンとアンは、多感なティーンエイジャー。放課後はいつも2人でバドミントンをするのが日課だ。とても仲の良い2人だったが、環境には違いがあった。官舎内で母が金貸しをしている関係で、ジェーンが経済的に不安の無い生活をしているのに対して、アンは父親が殉職したため、官舎を追い出されそうになっており、いつも不安を抱えている。ジェーンはそんなアンを気遣っていたが、まだ夢見がちなジェーンと、厳しい現実を知っているアンの間には、見えない溝が広がっていく。そんな折、官舎に変わった警官・トーンが引っ越して来る。
監督のジラサヤー・ウォンスティン自身の体験をもとにしたという本作。官舎の中庭がバドミントンのコートになっていたり、留守中の他人の家に、少女達がスルスルと忍び込んで行ったり・・・。監督が子供の頃、実際に住んでいた官舎を撮影に使用して、タイの警察官の家族の生活を、眼をみはるほど生き生きと描いている。
ジェーンとアンが、自分達だけの世界に閉じた印象を与えるのは本作の難点だが、彼女達がお互いの間に通じる、符丁のような言葉でやりとりするシーンには、リアリティや艶っぽさがあり、監督の演出力の高さを痛感させられた。人生への不安と期待を抱えた人物像を演じた、ギラナー・ピタヤゴンも、子供と大人の中間に居る時期の、なんとも言えない雰囲気を出していて適役だ。
劇中では、父親をキーワードにタイ社会が抱える問題を引き出している。主人公の1人の父は殉職して存在しないことで。1人の父はその存在の仕方で。そして、若き警官・トーンは、少女達の前で理想の父親像を演じようとすることで。
プロデューサーは、“本作は、監督の人生の中の、美しくも痛みをともなった記憶を描いた作品” だと語っている。第20回大阪アジアン映画祭の3月18日、20日に上映され無冠だったが、棘のように胸に刺さる一方で、観る者を励ます確かな力を持っている作品だった。
(2025年/タイ/129分)
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監督 ジラサヤー・ウォンスティン
出演 ギラナー・ピタヤゴン
ファティマー・デーチャワリークン
パコーン・チャットボリラック
