「二月新派喜劇公演 三婆」
2025年2月1日~9日 新橋演舞場
2月13日~24日 南座
松竹で何度か上演された舞台はもちろん、東宝版の舞台、映画(1974年)など、長期にわたって繰り返し上演。私もたびたび観ているが、年月を経るなかでこの物語がだんだん身につまされるようになったのを痛感した。客席には、高齢の観客が多いだけに、同じような気持ちになる人が多いだろう。「喜劇」と銘打たれているように笑いの要素も濃いが、そのなかに年齢を重ねることで起こる「現実」が描かれ、笑っているだけではない訴えがある。有吉佐和子が原作になる小説を発表したのは1961年。「恍惚の人」(1972年発表)なども併せて、「高齢化社会」という言葉もない時代に、〝来るべき世界〟を予測し、メッセージを発しているのはすごいことだ。
3人の女性が喧嘩を繰り返しながら同居生活を続ける物語、今回のバージョンは新派の水谷八重子、波乃久里子と渡辺えりが演じ、南座では20年ぶりの上演となる。
南座初日の前日(2月12日)ゲネプロの囲み会見で、それぞれは次のように話した。
◇水谷八重子 一昨年の三越劇場でも上演しましたが、その頃より全体的に良くなったと思っています。大好きな京都、南座のお客様の反応が楽しみです。
◇波乃久里子 上演を重ねて、無理に役作りをしなくても自然体で演じることができるようになりました。。
◇渡辺えり 老人ホームへ行くのに抵抗する様子は、自分の母親のことをい思い出して演じています。。
物語の発端は…。金融業者の男性・浩蔵が愛人の駒代(水谷八重子)の家で急死。浩蔵の妹・タキ(渡辺えり)があわててかけつけ、最後に本妻の松子(波乃久里子)が、あえて冷静にふるまいながら駆けつける。こうした幕開けの描写で、3人の関係性がわかる巧みな構成。いろいろあって、3人は一緒に松子の家で暮らすことになり、三つ巴の争いが繰り広げられていく。そんな3人の間を、浩蔵の部下だった重助(田口守)が取り持つ日々は続く。このあたりは、3人のうちの誰かに同感したり、ちょっと反感を抱いたりの繰り返し。そんななか、「夕食に1本のイカを買ってきたタキのいまの状況を、松子に訴える重助の言葉は痛烈で哀しく、身に染みる。こんな日常に区切りをつけたいと、松子は、駒代とタキに「家から出ていく」ことを申し出る。 こんな展開から、現代に通じる日常的なリアリティーがさらに加わり、笑ってばかり?ではいられない。
言ってはみたが、明日からは1人暮らしとなると、松子は自分の本心をついに吐露する。「1人は自由で、好きなことができる」とは思ってはいても…。近くにあるストーブでも「もう少し暖かくして」などと、身辺のことを他人にしてもらうのが当たり前だった松子には、とうていできない選択だった。そして終盤へ、さらに老いゆく3人の様子は、可愛くもあり哀しく、悲しい。自分の身の周りの人々、さらに自分とも重なって、決して他人事、ドラマとは思えなくなってくる。
〈あらすじ〉昭和38年の初夏。 金融業者の武市浩蔵が、愛人の時代 (水谷八重子)の家の風呂場で倒れ、 急逝した。一代で会社を大きくした浩蔵だったが、死んだ後には莫大な借金が残り、 本妻の松子 (波乃久里子) はその返済のために故人の妹のタキ (渡辺えり) の家と本宅の一部を売却。 なんとか住む家一軒だけは残ってホッとしたのも束の間、 兄の家は自分の家同然と、 突然タキが引っ越してきた。追い打ちをかけるように、 駒代も料理屋を開業するまでの間、 部屋を貸してほしいと転がり込んで来て.突然始まった3人の奇妙な共同生活。 果たしてその行く末は!?
〈キャスト〉水谷八重子、波乃久里子、渡辺えり、川﨑皇輝、大野梨栄、鴫原桂、田口守ほか。
〈スタッフ〉原作: 有吉佐和子 脚本:小幡欣治 演出: 齋藤雅文
写真左から、波乃久里子、渡辺えり、水谷八重子
(C)松竹