「いもうとの時間」 鎌田麗香監督インタビュー
2025年1月22日 取材
2025年2月14日から京都シネマ、15日から元町映画館で公開。
2024年2月に東海テレビローカルで放送されたテレビ版に追加取材し、再編集したドキュメンタリー映画「いもうとの時間」。東海テレビが長期取材に基づき、事件と裁判、関係者たちの人生を描いたシリーズ最新作の関西公開を前に、鎌田麗香監督にお話を伺いました。
名張毒ぶどう酒事件は、1978年から初代監督の門脇康郎氏が取材開始し、2代目が斎藤潤一監督、3代目が鎌田麗香監督、と次々にバトンタッチしていく中で、テレビだけでなく映画としても東海テレビが多く取り上げて来た題材です。
【Q】 私は昨年、テレビ版の『いもうとの時間』を観ていたんですが、その時は、筋を追うのに精いっぱいでした。今回、映画版を試写会でじっくり観た時に気がついたんですが、1961年に起こった「名張毒ぶどう酒事件」を追ったこの作品は、2005年あたりから映像が凄く生き生きして見えるんです。あれは撮影技術の進歩なんでしょうか?
【鎌田監督】 それもあると思います。あとやっぱり、カメラマンがちゃんと付いて、普通のニュースじゃなくてドキュメンタリーとして撮りあげよう、っていう中で撮影してるからじゃないでしょうか。『証言』のドキュメンタリー映像もありますけど、2005年以降はちゃんと映像美として撮る、という意識はあったかもしれませんし、撮ってる人の思い入れもあるかもしれませんね。
【Q】名張毒ぶどう酒事件を取材した映画『眠る村』(斎藤潤一監督と鎌田麗香監督の共同監督作品)が2019年に公開された時、斎藤潤一監督を取材しました。その時、斎藤監督に岡美代子さんについて伺ったのですが、“どちらかというとあまり前面に出て来ることは無かった岡さんが、お兄さんが亡くなられて、もう自分がやらないと・・・・という部分も出てきて、そこから積極的に東海テレビの前では凄く前向きに取材に応じてくださるようになった”と答えてくださいました。東海テレビなら話をしていい、という雰囲気になったわけですね。
【鎌田監督】もともと門脇(康郎)が、どちらかと言うと奥西さんのお母さんの取材をしていたというのがあったんですが、私くらいから岡(美代子)さんに取材してインタビューに答えていただくようになりました。最初はカメラはダメだったんです。“もう写さんとって”みたいな感じだった。やっぱりお兄さんが亡くなって、自分が前に出なきゃ、っていう気はもちろんおありだったでしょうし、私たちと喋っているうちに、気が大分楽になって、支援者や私たちとは喋ってもいい空気なんだ、と思うようになっていかれたんだと思います。今年1月にお会いしたんですけど、その時もまっすぐ、兄はやっていない、と普通に力強くおっしゃるようになっておられて、ご本人の覚悟と、慣れみたいなものもあるかと思いますね。お会いして10年とかになるので、東海テレビに心を開いておられる、というのはあるかもしれません。長く続けていることの大切さですね。
【Q】 2018年に東海テレビの『人生フルーツ』で、伏原健之監督を取材したんですが、最低でも4人の感性が入ってるとおっしゃるんですね。監督、カメラマン、編集、プロデューサー。中でもカメラマンの感性が重要で、出来あがってびっくりすることがあったと言われたのが印象的でした。『いもうとの時間』ではそういうことはありませんでしたか?
【鎌田監督】 映画の最後に、お医者さんと岡さんが診察室で話すシーンがあるんですが、カメラマンと私が一緒に診察室に入ると、ちょっと密になるので、カメラマンに任せるしかなかったんです。あそこで、(カメラマンが)真剣な眼差しをちゃんと撮られたな、と思いました。それは驚いたんです。
【Q】『いもうとの時間』は、奥西さんが一審で無罪になって自由の身になり、働きながら暮らしておられた4年間についても触れています。鎌田監督はその期間のことをかなり取材されたそうですが、あまりにも時間が経ちすぎていて、映画には入れられなかった部分が多いそうですね。
【鎌田監督】ドキュメンタリーってみんなそうかもしれないですが、取材しても入れ込めなかった部分は、いっぱいありますね。でも、あの4年間はもの凄く大事だったんですよ。
【Q】今回、監督は映画の制作にあたって、膨大な量の資料と格闘されたんですね?
(鎌田監督) 資料の中から大切な情報を見つけだすのはけっこう大変でしたが、ただ、手紙を見る作業は重要でした。今回新たに岡美代子さんの夫の忠三(ただみ)さんの手紙を発掘したんです。「最後に、手紙でも読んでおこうかな」と思ったんです
ね。あらかたの編集が終わった後に読みだして驚きました。(忠三さんが)あんなに情熱を持った人とは思わなかったですし、ギリギリ間に合うタイミングで見つかるっていうのも、やっぱり、天国で忠三さんが、“俺のこと取り上げるんだったら、そんなぬるいもんじゃないよ”っていうのを教えてくださったんじゃないかなと思いました。
【Q】劇中で仲代達矢さんが朗読するあの手紙のシーンは、凄いインパクトで私も
衝撃を受けました。つまり、名張毒ぶどう酒事件に関しては、これが最後じゃない、まだ先があるんだなと感じたんですが。
【鎌田監督】ありますね。本当に何があったのかっていうことを、丹念に取材して、映画まで行くかどうかはわかりませんが、番組はあるかもしれません。今も続けて取材していますし、それがいつか形になればいいな、と思っています。私は今、異動していますが、結局小さい会社なので、誰がゴールを決めてもいい。
【Q】『いもうとの時間』は、司法が抱える問題を描いた作品ですが、今、大きな企業でも隠蔽なんかがある、ということがニュースになっていて、そんなこととも絡めながら幅広い視点を与えられました。
【鎌田監督】 (ニュースを)受け取る側と当事者の間に見えない壁があって、そこの橋渡しをするのはメディアなんですが、その壁を越えられない、というか、ずっとそういう気持ち悪さは、多分、太古の昔からあるんだと思います。メディアはそんな風に葛藤しているか、よく考えずに出ているものをとりあえず流す、になってしまっているのか。だからと言って、今のSNSの時代だと、真実じゃないものも真実として広がったりしてるので、これをうまく整理していきたいですね。
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東海テレビのドキュメンタリー番組に、映画化の道筋をつけた阿武野プロデューサーの植えた苗が、大きな木になっているという印象。「誰がゴールを決めてもいい」と言う鎌田麗香監督の言葉に、地方局が今持つべき“健康さ”を感じました。
作品公開日 2025年1月4日からポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町で公開。以後全国順次公開。関西は2月8日から第七芸術
製作・配給 東海テレビ放送
監督/鎌田麗香 プロデューサー/阿武野勝彦 ナレーション/仲代達矢
