「サンセット・サンライズ」
2025年1月17日公開
「ワーナー・ブラザース映画」の案内で試写を観た。
公開日の1月17日は阪神・淡路大震災発生から30年となった日。元旦には昨年の能登半島地震を思い出すし、東日本大震災大震災(2019年3月11日発生)も近づいている。一方、コロナ禍は収束の方向に向かっているが、この冬はインフルエンザの流行で街中にはマスク姿の人が数多く見かけられる。
この映画は、そのうちの東日本大震災、コロナ禍、さらに地方都市の過疎化といったシリアスな出来事、現象をバックボーンに描いてはいる。しかし、そうした厳しい現実をシリアスに描くのではなく、ユーモアを交えながら綴り、上質な人情ドラマになっている。原作である楡周平の同名小説はもちろんだが、脚本の宮藤官九郎(宮城県出身)、監督の岸善幸(山形県出身)が、自分が生まれ育った東北地方の風土、そこで暮らす人々の気質を体感しているので、自然な形で描いている功績は大きい。
2020年、コロナ禍のなかでリモートワークをしようと考えた東京のサラリーマン・晋作(菅田将暉)は、空き家情報サイトで東北(宮城県気仙沼で撮影)に建つ4LDKの格安物件を見つけた。移住するための「2週間の自主隔離期間」にもかかわらず、こっそり釣りを楽しむ〝調子のいい〟都会っ子。それとは対照的に、地元のマドンナ・百香(井上真央)に思いを寄せる「モモちゃんの幸せを祈る会」メンバーはこの地で地道に暮らしている4人。ちょっとたいそうに言うと、〈エイリアンとの遭遇〉で巻き起こる出来事を軽快なタッチで綴っている。最初のうちは「軽さ」が前面で出ていた晋作だが、地元の人々と〈衝突〉〈接触〉する中で、温かい人情に触れ、さらに百香らの秘密を知るなかで変わっていく。一方、「幸せを祈る会」のメンバーはそれぞれ個性的なキャラクター。なかでも、武骨な居酒屋の店主(竹原ピストル)、ケンカっ早い水産加工工場に働く青年(三宅健)はぴったり!?の役。竹原がカラオケで歌うムード歌謡「わたし祈ってます」は絶品だ。
しかも、周りの人々、百香の父で漁師役の中村雅俊(宮城県出身)、おせっかいな町役場職員役の池脇千鶴、ネアカな社長役の小日向文世、パチンコ好きの老女役の白川和子らが、気負うことなく自然体で、ほのぼのとしてくる。
タイトルの「サンセット・サンライズ」から。ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の主題歌「サンライズ・サンセット」を思い出す。ウクライナ地方に暮らすユダヤ人一家を描いた名作で、娘たちの結婚式などで効果的に歌われる「サンライズ・サンセット」。「日は昇り、日は沈む~」という歌詞は、後に流民となる一家の悲しい未来を象徴している。一方、「サンセット・サンライズ」は「日は沈み、日は昇る~」と明るい前途を暗示している。「明けない夜はない」、この映画には声高のメッセージではない、復興への願いが込められている
〈出演〉 菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか。
〈スタッフ〉 脚本・宮藤官九郎。監督・岸善幸。原作・楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社)。製作幹事・murmur。制作プロダクション・テレビマンユニオン。配給・ワーナー・ブラザース映画。
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会