「室町無頼」
   2025年1月17日全国公開

 時代劇映画がだんだんと少なくなってきた、と言われる。しかし、昨年は「碁盤斬り」「十一人の賊軍」といった佳作をはじめ、時代劇の製作現場(東映京都撮影所)を舞台にした「侍 タイムスリッパー」、さらに、アメリカでは「SHOGUN 将軍」が世界的な話題になるなど、注目を集めるコンテンツだ。
 そんななかで公開されるこの映画。正義の味方が敵役をさっそうと斬る!といった勧善懲悪ではないし、現代風にアレンジされてもいない、ある意味では、これまでにない〝斬新な時代劇〟だ。いくつかの点で、それが言える。
 まず、時代設定がとても珍しい室町時代(14世紀~15世紀)だということ。そして、その世に実在した蓮田兵衛を主人公に据え、同じく実在の人物、骨皮道賢は兵衛のかつての悪友であり、立ち向かう存在として描かれている。この2人、                              それぞれ1つの資料に名前が載っているが、歴史に詳しい人でさえ、ほぼ〈無名の人物〉。日本史上、初めて武士階級として一揆を起こした兵衛を描いた垣根涼介の同名小説が直木賞を受賞、それを映画化しているのだが、〈知られざる人物〉だけに、作る側も観る側もイマジネーションが膨らんでいく。 
 物語は、無数の死体が京都の河原に打ち捨てられる場面から始まる。ショッキングな描写に、シリアスでリアルな作風を予想(危惧)したが…。そこに現れた兵衛は、無慈悲に労働を強いる男たちを、次々に斬り捨てていく。そのバックには、ときにはリズミカルに、ときには情感あふれるインストルメンタル、メロディーが流れて、兵衛のカッコよさが強調される。彼を演じる大泉洋は、持ち味である「陽」の部分をほぼ封印し、「陰」のある人物像を作り上げている。その後も何度か登場する砂塵舞うなかでの壮絶なアクション。監督・脚本の入江悠は「マッドマックス」シリーズを意識したようだが、私には「荒野の用心棒」などのマカロニウェスタンの世界が頭をよぎった。懸命に生きようとする貧し人々を虐げる権力者。残酷と思える仕打ちをリアルに描くことで、観る側の怒り、やるせなさが募り、それが主人公(ヒーロー)への喝采につながっていくという構図だ。
 「斬新さ」を象徴するもう1つのポイントは、兵衛を取り巻く農民、牢人(主人と所領を失って、各地を徘徊する武士)を演じる俳優たち。映画やテレビでもなじみの人もいるが、なかには正直、知らない人(失礼)もいる。それが、みんないい仕事をしている!へんに固定観念を持つより、こうしたキャスティングがよく、それぞれキャラが立っていて、群集劇としての醍醐味がある。
 そんななか、没落武士の子・才蔵(長尾謙杜)の活躍が際立つ。兵庫に命じられて棒術の達人・唐崎の老人(柄本明)のもとで技を磨くあたりは、映画「ベスト・キッド」の師弟関係もほうふつし、ドラマチックだ。
 クラマックスは、寛正3年(1463年)に起こった徳政一揆。室町幕府の権威でもあった京都・相国寺の七重の塔の周辺で、兵衛を軸にした農民や牢人と道賢(堤真一)が率いる幕府を護衛する武装集団との闘いが迫力満点に繰り広げられる。一揆が用いた奇策、体に枝葉を付けて偽装した大勢が、じわりじわりと敵に迫っていく。話は飛躍するが、シェイクスピアの「マクベス」で、主人公の城に攻め入るとき、「バーナムの森は動いている!」という名セリフがあり、くしくも日本とスコットランドで同じ戦法が使われていたとは。
 願わくば…。悪友だったという兵衛と道賢の親密ぶりをもう少し描いてほしい気がした。また、史実どおりで兵衛の運命はどうしようもないとはいえ、「be continue」(次に続く)という余韻があればとも思える快作だ。
〈あらすじ〉1461年、応仁の乱前夜の京(みやこ)。大飢饉と疫病がこの国を襲った。 蓮田兵衛は、己の腕と才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人。一方、才蔵は天涯孤独で餓死寸前を生き延びたが絶望の中にいたところを、兵衛に見出され、鍛えられ、 兵法者としての道を歩み始める。才蔵の武器となるのは、“六尺棒”。 地獄の修行を終えた時、超人的な棒術を身につけた才蔵の前に敵は無い―。 時は来た―。才蔵だけでなく、抜刀術の達人、槍使い、金棒の怪力男、洋弓の朝鮮娘ら、個性たっぷりの アウトローたちを束ねる兵衛。ついに巨大な権力に向けて、京の市中を舞台に空前絶後の都市暴動を仕掛ける。 行く手を阻むのは、洛中警護役を担う骨皮道賢。 兵衛と道賢はかつて志を同じくした悪友ながら、道を違えた間柄。 かつては道賢、いまは兵衛の想い人である高級遊女の芳王子が二人の突き進む運命を静かに見届ける中、 “髑髏の刀”を手に一党を動かす道賢に立ち向かい、兵衛は命を賭けた戦いに挑む。 この世の地獄をぶち壊せ!京を覆う紅蓮の炎の中から明日をつかめ!
〈出演〉大泉 洋、長尾謙杜、松本若菜、遠藤雄弥、前野朋哉、阿見 201、般若、武田梨奈、 水澤紳吾、岩永丞威、吉本実憂、ドンペイ、川床明日香、稲荷卓央、芹澤興人、中村蒼、矢島健一、三宅弘城、柄本 明、北村一輝、堤真一。
〈スタッフ〉監督・脚本:入江悠。原作・垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)。
配給・東映 (C)©2025『室町無頼』製作委員会 ≪上映時間 134分≫(
(C) 2016 垣根涼介/新潮社(C) 2025「室町無頼」製作委員会

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