「正体」
2024年11月29日公開
 「冤罪」という問題を、声高にストレートに訴えるのではなく、ドラマチックな展開でエンタテインメント作として味わえる。藤井道人監督(脚本も担当)は、これまでにも「新聞記者」(「Netflix」版も)、「ヴィレッジ」「ヤクザと家族」など、社会的な問題とドラマとが〈融合〉した作品を生み出してきた。これもまたその1作といえる。
 いわれなき罪を背負い、逃亡する主人公。それを執拗に追いつめていく人物。この構図で思い出したのは、テレビドラマシリーズ「逃亡者」(日本では1964年~67年に放送)、それを映画化したハリソン・フォード主演の「逃亡者」(1993年)。さらに深めていくと、それらの原点になるヴィクトル・ユーゴーが書いた「レ・ミゼラブル」(1862年に発表)にまで行きつく。これらが、いまも知られるのは、相反する2人がある意味で運命共同体となっていく…。そうした互いの心境の推移がこまやかに描かれているからだろう。追われる者と追う者。それぞれ演じた横浜流星、山田孝之の演技はそこに重点を置いている。
 横浜が演じた鏑木が正体を隠して潜伏するため、「5つの顔」を持っている。横浜の別人になる〝変身〟ぶりと共に、そこで関わる人々とが短編ドラマのようでもあり、結末に向けて絡み合っていく巧みな構成だ。そんな緻密で丁寧な作りのなかで…。個人的に「?」と感じたのは、鏑木がライターに〝変身〟するエピソード。どうしてこの職を手にすることができたのか。編集者の沙耶香が、どこに彼の才能を見出だしたのか。さらに、喫茶店で素顔に近い鏑木と近距離で接した瞬間、ニュースに敏感なはずの沙耶香が「正体」を見出ださなかったのはなぜなのか?全体を通してリアルな描写のなか、このあたりがちょっと〝綺麗〟すぎる気もした。
 とはいえ、冒頭の脱走シーンから意外な展開にぐいぐい惹きつけられていく佳作なのは間違いない。
〈ストーリー〉日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木 (横浜流星)が脱走した。 潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香 (吉岡里帆)、和也 (森本慎太郎)、 舞 (山田杏奈) そして彼を追う刑事・又貫 (山田孝之)。 又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。 彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。
〈キャスト〉横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、前田公輝、田島亮、遠藤雄弥、宮崎優、森田甘路、西田尚美、山中崇、宇野祥平、駿河太郎、木野花、田中哲司、原日出子、松重豊、山田孝之。
〈スタッフ〉原作: 染井為人「正体」(光文社文庫)、監督:藤井道人、脚本:小寺和久、藤井道人、音楽:大間々昂、企画:プロデュース:水木雄太、企画:福島大輔、プロデューサー: 辻本珠子、阿部雅人、瀬崎秀人、編集:川上智之、照明: 上野甲子朗、録音:米澤徹、美術:松本真太朗、 神戸信次、原島徳寿、衣裳: 皆川美絵、キャラクタースーパーバイザー:橋本申二、ヘアメイク:西田美香、編集: 古川遼馬、VFXプロデューサー: 平野宏治、VFXスーパーバイザー:吹谷健、カラリスト: 西田賢幸、スーパーヴァイジングサウンドエディター: 勝俣まさとし、リレコーディングミキサー:浜田洋輔、キャスティング: おおずさわこ、助監督:黒柳祥一、制作担当:柿本浩樹、森崎太陽、ラインプロデューサー:柴田和明、主題歌・「太陽」 ヨルシカ (Polydor Records)、制作プロダクション:TBSスパークル BABEL LABEL、配給:松竹
(C)2004 映画「正体」製作委員会主題歌・「太陽」 ヨルシカ (Polydor Records)

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