「2度目のはなればなれ」
    2024年10月11日公開
 イギリス映画の重鎮マイケル・ケインが、本作をキャリアの最後にする、と表明して主演した作品。イギリスとフランスを舞台に展開する人間ドラマで、2014年に実際にあった出来事の脚色である。
主人公バーナードは、長年連れ添った妻のレネに看護が必要になり、レネと一緒に高齢者施設に入居した。そんなある日、バーナードにノルマンディ上陸作戦が行われたDデイの記念式典の知らせが届く。それは第二次大戦中、海軍に居た時の思い出が、バーナードの胸に生々しく立ち上がる瞬間だった。
フランスに旅立つ決心をするバーナード。彼を見送るレネ。2人はおしどり夫婦で、殆ど離れたことが無い。戦時中以来、離れて過ごすのは2度目、という設定の2人の日々を、監督は厳しい冬の中の小春日和のように演出する。脚本のウィリアム・アイボリーは、バーナードが家族を何より大切にする人物であることを強調してからテーマに入り、そこにミステリアスな要素を加えていった。
 ともにオスカー俳優のマイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンの華麗なる共演で、本国イギリスで大ヒットした作品だが、グレンダ・ジャクソンは本国での公開を待たず2023年6月にその人生を閉じた。グレンダ・ジャクソンは2022年の「帰らない日曜日」でも、気骨のある老作家に扮した姿が記憶に新しい。本作でも、高齢者施設の新米看護師の女性とのシーンで、味わいのある演技を披露する。入れ墨を入れている若い看護師に向かって、あんたの親は何も言わないの?と突っ込む姉御肌のキャラクターに、世代間のギャップやグレンダ・ジャクソンの持ち味が凝縮されていた。  
フランスでのバーナードを描くシリアスなパートと、イギリスの施設でバーナードを待つレネの、ユーモラスなパート。2つのパートを並行させながらドラマは進行し、最後にはっきりと、オリバー・パーカー監督の、戦争に対する意見が描かれる。
イギリス映画界の名優2人が、キャリアの最後にこの映画を選んだ意味はここにあるのだろう。映画のメインビジュアルは仲睦まじい老夫婦だが、本作が本当に伝えようとしているのは徴兵年齢以前の若者に向けた反戦メッセージである。
(2023年/96分/イギリス)
配給 東和ピクチャーズ
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