「花嫁はどこへ?」
2024年10月4日公開
2019年の「きっと、うまくいく」に主演したインドの俳優アーミル・カーンが、コンクールで見つけて映画化権を取得。キラン・ラオを監督に起用して、映画化した作品である。
舞台は2001年のインド。伝統に則って自宅で結婚式をあげたプールは、花婿のディーパクと一緒に電車に乗り込んだ。ディーパクの住む村に行き、結婚生活を始めるためだったが、車内は満員で、何組かの新婚カップルが乗っていた。同じ車両のもう一組はプラディープとジャヤで、プールとジャヤが、同じ赤いベールをかぶっていたために、“花嫁の取り違え”が起こる。
ドラマは、間違ってディーパクの故郷に連れてこられたジャヤの運命と、駅に取り残されたプールの運命を並行させながら進行する。カーストや宗教が違うと結婚が難しいインドで、育ちの違うディーパクとジャヤが、つかの間、疑似家族になるくだりでは、新郎ディーパクの親族も含めたドラマが展開する。一方のパティラ駅ではプールが、生まれも育ちも違う人々に助けられることになる。2つのエピソードでキラン・ラオ監督は、差別のある社会を批判した。と聞くと、説教臭い映画を連想してしまうかもしれないが、物語のカギになる人物として、ムルティ署の“汚職警官”がユーモアあふれる演技を披露するので、本作にはこの種の作品にありがちな暗い影が無い。
たとえば、プールを助ける少年チョトウは、駅の隅の壊れたコンテナに住んでいるが、プールに「見かけと中身は全然違うんだよ」と陽気に言ってのける。結婚が破綻したと世間に誤解されるのを恐れて、実家に連絡出来ずにいるプールが、少しずつ強いキャラクターになっていく発端には、この少年の人間性がある。
「きっと、うまくいく」「PK ピーケイ」「ダンガル きっと、つよくなる」などへの出演で日本の映画ファンの間でも知名度が高いアーミル・カーンは、インド映画に欠かせない音楽とダンスだけでなく、更に社会的なテーマを織り込むことで知られている。今回もプロデューサーとしての彼は、インドの伝統的な風俗、習慣を描きながらも、ボリウッドに女性の社会的地位向上というベクトルを持ち込んだ。久しぶりに、どこかホッとさせる映画だ。
プールには子役出身で今回が映画初主演のニターンシー・ゴーエル。ジャヤを演じるのは本作が映画初主演のプラティバー・ランター。劇中でかかる「Beda Paar」はインドの映画音楽界を代表する歌手の一人、ソーナー・モハパトラが唄っている。
(2024年/インド/124分)
配給 松竹
©Aamir Khan Films LLP 2024