「MOULIN ROUGE!
ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル〉
2024年6月20日~8月7日 帝国劇場
9月14日~9月28日 梅田芸術劇場メインホール
客席に一歩、足を踏み入れた瞬間でキャバレー、ダンスホールの世界に目を見張った。舞台に向かって左にはムーラン・ルージュの象徴である「赤い風車」の羽根が緩やかに回転、舞台を見渡しながら右に目を向けると、全身が青いゾウが宙に浮かぶ。それらが赤い照明できらびやかに展開している。これほど大掛かりで巨額を投じている舞台装置は珍しく、開演前からとてもぜいたくな気分にもなった 。
かつて、フランスを訪れた時、ムーラン・ルージュ、クレイジーホース、リドとキャバレー巡りをしたことがあった。バストを露出したダンサーたちがごく〝自然〟に踊る姿は絢爛豪華。欲を言えば、(自分もその1人だったが)観光客目当てとも思えるわかりやすい構成で、「ちょっと妖しい空間」に忍びこんだ?という部分はあまり味わえなかったのは残念。もともと、フランスにあるキャバレー、ダンスホールのムーラン・ルージュは1889年に開業、象徴的なものは店の前にある巨大な赤い風車とフレンチカンカン。前者は日本でも知られ、かつては東京には同名のムーラン・ルージュ新宿座、大阪・道頓堀にはキャバレー赤玉などでそれを模した風車がシンボルだった。ちなみに、♪赤い灯、青い灯~という「道頓堀行進曲」の歌詞は、道頓堀川に映る風車のイルミネーションを象徴しているのだと。一方、フレンチカンカンはいまでもレビューの定番で、同名のミュージカル映画(1954年)も作られるほど有名。
今回の「ムーラン・ルージュ」は、バズ・ラーマン監督による同名映画(2001年)がベースになっている。音楽がほぼ全編に流れるラーマン監督は「流麗」という形容詞がふさわしく、個人的にも好きな作品。まさに、ミュージカル(舞台)にふさわしい題材だ。
冒頭に書いた舞台セットに圧倒されるなかで、ダンサーたちがなにげなく姿を見せて物語がスタート。登場人物たちの人生が「劇中劇」ともいえる構成で展開していく。時代設定は開業してまもない、猥雑でもあった頃、そこにいるのは、いまのようにショービジネス、エンタテインメントへのあこがれというより、生きていくためにこの仕事を選んだという人々。その象徴がヒロインのサティーン。彼女を気に入った貴族が金にものを言わせて(確かにルックスもいいが)、自分のものにしようと上演作品にも出資する。というように、シンプルでわかりやすいストーリーだが、それを絢爛豪華に描かいていく。登場するメロディーを聴いていると、アレ?どこかで聴いたことがある曲がいくつも。覚えているだけでも、「 My Heart Will Go On」(「タイタニック」)、「I Will Always Love You」(「ボディガード」)、「Diamonds Are a Girl’s Best Friend」(「紳士は金髪がお好き」)、「 Diamonds Are Forever」(「007 ダイヤモンドは永遠に」)などのフレーズが。映画になかったが、舞台版ではまさに、愛のテーマソングが散りばめられていて、これを発見するのも楽しくなってくる。
ドラマならでは強烈なメッセージを受け止めるのも演劇の魅力だが、ひとときの夢=非日常にひたれるのも醍醐味だ。
〈ストーリー〉1899年、パリ。退廃の美、たぐいまれなる絢爛豪華なショー、ボヘミアンや貴族たち、遊び人やごろつき達の世界。ナイトクラブ ムーラン・ルージュの花形スターであるサティーンとアメリカ人作曲家クリスチャンは、ムーラン・ルージュで出会い、激しい恋に落ちる。しかし、クラブのオーナー兼興行主のハロルド・ジドラーの手引きでサティーンのパトロンとなった裕福な貴族 デューク(モンロス公爵)が二人の間を引き裂く。
デュークは望むものすべて、サティーンさえも金で買えると考える男だった。
サティーンを愛するクリスチャンは、ボヘミアンの友人たち(その日暮らしだが才能に溢れる画家トゥールーズ=ロートレックやパリ随一のタンゴダンサーであるサンティアゴ)と共に、華やかなミュージカルショーを舞台にかけ、窮地に陥ったムーラン・ルージュを救うことでサティーンの心を掴もうとするのだが…。
〈キャスト〉サティーン:望海風斗、平原綾香、クリスチャン:井上芳雄、甲斐翔真、ハロルド・ジドラー:橋本さとし、松村雄基、トゥールーズ=ロートレック:上野哲也、上川一哉、デューク(モンロス公爵):伊礼彼方、K、サンティアゴ:中井智彦、中河内雅貴、ニニ:加賀 楓、藤森蓮華、ラ・ショコラ:菅谷真理恵、鈴木瑛美子、アラビア:磯部杏莉、MARIA-E、ベイビードール:大音智海、シュート・チェン
〈スタッフ〉脚本:ジョン・ローガン、演出:アレックス・ティンバース、振付:ソニア・タイエ、ミュージカル・スーパーヴァイザー/オーケストレーション/編曲/追加作詞:ジャスティン・レヴィーン、装置デザイン:デレク・マクレーン、衣裳デザイン:キャサリン・ズーバー、照明デザイン:ジャスティン:タウンゼント、音響デザイン:ピーター・ヒレンスキー、日本公演版訳詞提供:アーティスト松任谷由実、いしわたり淳治、UA、Kanata Okajima / 岡嶋かな多、オカモトショウ(OKAMOTOʻS)、栗原暁(Jazzinʼpark)、KREVA、サーヤ(ラランド)松任谷由実
(9月18日、梅田芸術劇場メインホールで観劇)。当日の主なキャスト=サティーン:望海風斗、クリスチャン:甲斐翔真、ハロルド・ジドラー:松村雄基、トゥールーズ=ロートレック:上川一哉、デューク(モンロス公爵):伊礼彼方