「憐れみの3章」
2024年9月27日から公開
(ディズニーの試写会にて)
ギリシャの鬼才、ヨルゴス・ランティモス監督と、エフティミス・フィリップによるオリジナルの共同脚本である。3話構成の不条理劇で、設定の違う3つのドラマを、同じメインキャストが演じている。第1章では、上司と部下。第2章では、夫と妻。第3章では新興宗教団体とその信者が題材で、対峙する両者を通して、とかく悪い人間関係にはつきものの、支配と隷属の関係性が見えてくる。
つい最近のニュースでも、勤務時間外の上司からのメールに出るか出ないか、といったことが労働問題として取りざたされたが、第一章ではウィレム・デフォーが、悪質で粘着質の上司に扮している。部下の私生活にまで指令を出すウィレム・デフォーに対して粛々と従う部下。悪夢のようなループに閉じ込められた部下を演じるジェシー・プレモンスは、本作でカンヌの最優秀男優賞を受賞している。
本作のテーマの一つである支配と隷属は、ランティモス監督の出世作となった2009年の作品「籠の中の乙女」のテーマだった。そこでは父親の支配から逃れられない子供達の絶望が描かれたが、本作では、悪質な上司のマインド・コントロールから逃れようとする部下の絶望が描かれた。
 同じ俳優が各エピソードで、それぞれ異なるキャラクターに扮するのは、俳優にとって挑戦だ。今回はランティモス監督と「哀れなるものたち」でタッグを組んだエマ・ストーンも難解な役を柔軟に演じて健闘している。劇中、エマ・ストーンが演じ分ける女性達は、みんな悲劇的なキャラクターで、経済的暴力や肉体的暴力、精神的暴力について考えさせる。
ヨルゴス・ランティモス監督は、先の「哀れなるものたち」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞®で主演女優賞を含む4部門受賞の快挙を成し遂げた。受賞後第一作目はどんなものになるか?は注目を浴びていたが、フタを開けてみると、ある種の意思表明と見ていい作品が誕生していた。ランティモス監督がその出世作で描いた、支配者の傲慢さと隷属するという行為の苦しみは、人と人の関係にとどまらず、国と国の関係をも連想させる。
これからのランティモス監督は、観客に長く議論されるような作品を撮っていくつもりなのだろう。まるで迷路に迷い込んだような、不思議な感覚に囚われる1本である。
(2024年/165分/アメリカ・イギリス)
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
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