「本日公休」
2024年9月20日公開
理髪師の母親と、その子供達を描いた人間ドラマである。
台中に住むアールイは、2人の娘と1人息子を女手ひとつで育てた理髪師。美容師をしている次女のリンは、離婚して台北に行ってしまったが、リンの元夫チュアンは近所に住んでいて、車の整備士をしながら、ちょくちょくアールイの店に髪を切りに来る。アールイはチュアンが連れてくる孫をかわいがっていて、密かに娘とチュアンの復縁を期待しているが・・・。
アールイ役のルー・シャオフェンは、本作が24年ぶりの映画主演となる台湾の名優。彼女が演じるアールイは、フー・ティエンユー監督自身の母親がモデルだ。
劇中ではアールイが、お客さんの髪を切りながら台詞を喋るシーンが多く、その時、手元が映像に映り込む。そのためルー・シャオフェンは、4、5カ月の間、しっかりと、髪を切るトレーニングを受けたという。「今なら私、美容室を開店出来ますよ」と、2年前のアジアン映画祭の壇上で自身たっぷりに語る姿は印象的だった。
監督が自身の親をモデルにする映画はたくさんあるが、親を良く描くにしても悪く描くにしても、監督自身の中でよくこなれている方が、作品に説得力が出てくる。その点、本作の母親像は、ティエンユー監督が、人として母親に共感しながらも、適度な客観性を持って描写しているので気持ちがいい。
台北に住む娘の家を訪ねて来て、「台中に戻って家を買ったら?老後も安心よ」と心配するアールイに対して、娘が返す素っ気ない返事をするシーンは秀逸。登場人物達の関係性を通して、監督の人生が見えてきて、ほのぼのとさせる。夢を追う娘達とは反対に、息子の方はおっとりしていて、ビジネスが下手。ティエンユー監督は、3人の子供達が象徴する台湾の今と、昔気質の理髪師、アールイの世代をスクリーンの中に凝縮させた。
「誰にでも頭はあるから、理髪師は失業しない、と師匠に言われたの」とアールイは言う。母親が子供達を心配して、子供達が母親を心配して・・・と、そんな心の機微は、日本も台湾もよく似ているんだな、と思う。2006年にアジア映画を紹介する専門館として開館し、今年10月24日に閉館する心斎橋シネマートでの公開に、間違いなくふさわしい1本。
(2023年/106分/台湾)
配給 ザジフィルムズ/オリオフィルムズ
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