「侍タイムスリッパー」
    2024年9月13日から全国公開

アメリカが製作した「SHOGUN 将軍」(配信・ディズニープラス)」がエミー賞で数々の賞に輝き、海外では時代劇が脚光を浴びている。一方、本拠地の日本では、「水戸黄門」「暴れん坊将軍」といったテレビ時代劇が次々に終了し、映画での本数も減りつつある。そんななか、時代劇に情熱を傾ける人々、なかでも「斬られ役」に焦点を当てているのがこの映画。2024年8月に東京のいくつかの映画館で上映されると、「おもしろい!」という評判が高まり、全国公開されることになったあたり、「カメラを止めるな」のサクセス・ストーリーを思い起こさせる。ということで、さっそく大阪公開初日に映画館を訪れた。
それほど待望した大きな要因は、舞台が東映京都撮影所など京都であること、そして紅萬子、田村ツトムをはじめ、関西を拠点に活動している俳優たちに、〝スポットライト〟が当たっていること。紅はいつものように、どこにでもいるような自然で生活感がある関西の女性を。田村は、「桃太郎侍」?をほうふつさせるような時代劇ヒーロー特有の「口跡」を踏襲し、達者な殺陣も披露している。
江戸時代から現代へ、それも映画村へタイムスリップしてきた主人公の武士役は山口馬木也。「剣客商売」など時代劇にも数多く出演しているが、意外にも主演は初めて。侍という特性を生かして、「斬られ役」に転身?するあたりに無理がなく、さらに迫真の死にっぷりは説得力があり、劇中で監督が抜擢するのも説得力がある。彼が恋する助監督を演じる(実際にこの映画の助監督もつとめている)のは沙倉ゆうの。ここはアイドル風のヒロインが「普通」なのだが、これもまたいいキャスティング。タイムスリップという奇想天外の設定ながら、それを忘れる自然な展開で、だんだんとはまっていった。
 ちょっと気になったのは、「迫真」を追求するあまり、「真剣勝負」を申し出るくだり。主人公たちの鬼迫を表現したいのだろうが、これは「男の美学」ではない。かつて取材した映画「座頭市」事件が頭をよぎった。そして、(ネタバレはしないが)ラストは抜群!SNSや口コミで、さらに〝化けて〟ほしい作品だ。
〈ストーリー〉時は幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。
〈キャスト〉高坂新左衛門:山口馬木也、風見恭一郎/冨家ノリマサ、山本優子:沙倉ゆうの、殺陣師関本:峰蘭太郎、山形彦九郎:庄野﨑謙、住職の妻節子:紅 萬子、西経寺住職:福田善晴、撮影所所長 井上:井上肇、錦京太郎(心配無用ノ介):田村ツトム、斬られ役俳優・安藤:安藤彰則、村田左之助:高寺裕司。東映京都俳優部
〈スタッフ〉監督・脚本・撮影・編集:安田淳一、殺陣:清家一斗(東映剣会)、制作:清水正子

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