「ぼくのお日さま」
     2024 年9/6(金)~9/8(日)
      テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定公開、 9/13(金)よりテアトル梅田ほか全国で。
 前作「僕はイエス様が嫌い」が世界的な注目を浴びた奥山大史監督作品である。主人公は吃音があって、時おり子供たちにからかわれている少年タクヤ。タクヤは放課後、アイスホッケー・クラブに通っている。アイスホッケーは地元の男子が大抵やっているスポーツだが、タクヤはむしろフィギュアスケートの方に興味深々。フィギュアというより、同じリンクでフィギュアの練習をしている少女、さくらに惹かれている。
 そんなタクヤがホッケーから、フィギュアに転向するチャンスがやって来た。きっかけを作ったのは、さくらのコーチ荒川だ。元プロのフィギュアスケーターだった荒川は、タクヤとさくらをペアで、アイスダンスのコンテストに出場させようとする。
しかし、3人の間にはいつしか不協和音が響き始めた。
子供のころ、フィギュアスケートを習っていた時期があるという奥山大史監督は、タクヤとさくらの家庭環境の映像の中に、習い事を通して築かれる親子の関係性を入れてくる。淡い期待であれ、大きな期待であれ、親の側は子供に何かを期待してくるが、子供の側はノンストップで成長してゆき、親をちょっとずつ裏切っていく。そのちょっとのズレがメタモルフォーゼの予感をはらんでいて、ドラマを暗い印象からほんわかした明るい印象に変化させている。
 荒川、さくら、タクヤの3人が、晴れ渡った冬の日に、スケートの練習をするシーンは美しい。さくらが荒川に注ぐ視線と、荒川がタクヤに注ぐ視線、タクヤがさくらに注ぐ視線。絡み合う3人の心理が、抑制されたカメラワークで描かれる。
 ほのぼのとした光景の背後に、タクヤの吃音を理解しない土地柄を描き込んだストーリーは、奥山監督のオリジナル脚本。2014年に発表されたハンバート・ハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」を聞いて、ふとドラマのアイデアが浮かんだと言う。
 タクヤとさくら役の2人は映画初出演。荒川コーチのパートナー役に、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」の記憶も新しい若葉竜也。選手人生を諦めてコーチに転身した荒川に扮する池松壮亮には、今回いつになく哀愁が漂う。池松壮亮自身も若い才能との仕事を楽しんでいるようで、残暑厳しい中、爽やかな後味の1本である。
(2024年/90分/日本)
配給 東京テアトル
(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

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