劇団四季「ウィキッド」

 2024年8月15日~2025年7月6日
 大阪四季劇場

大阪での公演は15年ぶり、その間に社会や自分のなかでもいろいろな「変化」があって、まるで新作を観るような新鮮な気持ちで楽しむことができた。私にとって、うれしく懐かしいのは、前回の公演でもヒロインのエルファバを濱田めぐみ他と共に演じていた江畑晶慧 が今回も同役を演じていること。また、オズの魔法使いをベテランの飯野おさみが演じていること。劇団四季は1つの役を複数の俳優が演じるのだが、観劇したプレビュー公演(8月14日)はどちらも出演。グリンダ役は山本紗衣が演じた。
ジュディ・ガーランド主演の映画「オズの魔法使い」(1939年)は映画史に残る名作で、ことあるごとにドロシーがブリキ男、ライオン、かかしと一緒にオズの国で冒険を繰り広げる映像が登場するなどよく知られている。そのなかで、登場するグリンダは「北の良い魔女」なのに対して、エルファバは「西の悪い魔女」として描かれていて、正直言ってあまり印象に残らないキャラクター。しかし、どんな「人物」でもそうなったワケがある!このミュージカルは、グレゴリー・マグワイアが発表した「ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語(1995年)が原作。ドロシーが訪れる以前のオズの国を舞台に、2人の少女が出会い「善い魔女」 と 「悪い魔女」になる過程、 そしてブリキ男やカカシが心と脳を失った理由などが描かれている。2003年にはミュージカル化されてブロードウェイで開幕。日本では劇団四季が初演する前には、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)でアトラクションとしてダイジェスト版が上演されたことがあり、「ぜひ、全編を観たい!」と思ったものだ。
さて今回の公演は…。前回に観た時にも十分に大人だったが、さらにもっと深い部分を理解できた気がする。視覚のうえでもっともわかるのは「肌の色の違い」。エルファバは緑色の肌を持つことで、周囲から距離を置かれ差別さえうける。考えてみると、アメリカが生んだキャラクターには、アメコミの超人ハルク、マスク、映画「モンスターズ・インク」のサリー、マイク、「シュレック」とどういうわけか緑が多い。多様な肌の色の人々が暮らす欧米において、そうした偏見へのメッセージとして、特異な緑で表現しているのだろうか。そういったメッセージはこの作品にも共通していると改めて感じた。それは、動物への仕打ち、対応も同じ。人間が勝手に「世のためにいいだろう」と理由付けして、猿に羽根をつけ、言葉を奪う。「オズの魔法使い」の物語に登場するライオン、かかし、ブリキ男もその被害者でもあるのだ。
さらに、現代にも通じる脅威を象徴しているのは、オズの魔法使いの存在。万能の力を持つように思われる彼は、実は普通の人間だった。これは「オズの魔法使い」の物語のラストに登場するが、「ウイキッド」でさらに詳細に描かれている。なんでもない人物が、巧みな仕掛けを駆使して、限りない力を得る。
全編にわたってファンタジーの要素が濃いタッチで描かれている「ウィキッド」だが、実はとてもおそろしく、リアルなストーリーでもあるのだ。
 ちなみに、来春には「ウィキッド ふたりの魔女」として映画公開される。
〈ストーリー〉人も動物も同じ言葉を話し、ともに暮らす自由の国・オズ。しかし動物たちは少しずつ言葉を話せなくなっていた。
緑色の肌と魔法の力を持つエルファバはシズ大学に入学し、美しく人気者のグリンダとルームメイトに。見た目も性格もまるで違う二人は激しく反発するが、お互いの心に触れるうち、次第にかけがえのない存在になっていく。ある日、オズの支配者である魔法使いから招待状が届いたエルファバは、グリンダとともに大都会エメラルドシティへ。そこで重大な秘密を知ったエルファバは、一人で戦うことを決意。一方のグリンダは、オズの国を救うシンボルに祭り上げられる。運命は2人を対立の道へと駆り立てていく。
〈クリエイティブ・スタッフ〉作詞・作曲=スティーヴン・シュワルツ。脚本=ウィニー・ホルツマン。演出=ジョー・マンテロ。ミュージカル・ステージング=ウェイン・シレント。※グレゴリー・マグワイアの小説に基づく
〈日本スタッフ〉企画・製作=四季株式会社。日本語版歌詞・台本=浅利慶太。
撮影・野田正明

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