「ぼくの家族と祖国の戦争」

     2024年8月16日 

本国デンマークのアアカデミー賞で、観客賞、プロダクションデザイン賞などにノミネートされた佳編である。1945年、第2次世界大戦の終戦も間近な4月。ドイツ人難民がドイツ占領下のデンマークに押し寄せた。受け入れ先となったのは、デンマーク各地の大学だったが・・・というのが本作の発端。この年の4月30日にはアドルフ・ヒトラーが自殺しているから、この頃のナチスは国外のドイツ人難民を守るどころではなかった筈だ。現に劇中では、軍が引き上げてしまい、ドイツ人難民の命が、敵国であるデンマーク人達に託される。
ドラマはドイツ人難民を受け入れたある大学を舞台に、学長ヤコブにかかる内外からの圧力を、息子のセアンの視点から描く。ヤコブを演じているピルウ・アスベックはリュック・ベッソンの「LUCY/ルーシー」や「アクアマン/失われた王国」などメジャーのアクション映画に登場するような俳優だが、夫であり父であり学長である前に、1人の人間としてのヤコブのあり方を骨太に演じている。
洋の東西を問わず大抵の人間が、子供時代は家族の中で父親を尊敬するように育てられるものだ。まして男の子にとっては最初のロール・モデルでもある筈だが、セアンが時に父親に幻滅しながら、すれ違いを経て成長していくエピソードなどは、戦争映画というより良質の家族ドラマの趣だ。
第2次世界大戦末期、難民となったドイツ人がデンマークに避難した事実に、フィクションを加えたものだが、単純なヒーロー対ヒールの構図に落とし込まず、戦争の本質的な残酷さを巧みに描いたアンダース・ウォルター監督のシナリオは、昨今の複雑に絡み合う世界情勢の中、シンプルに共感出来て、これも映画ならではの表現だと思った。劇中で使用されるデンマーク語とドイツ語の語感が醸し出すリアリティも楽しめる。

(2023年/デンマーク/101分)
配給 スターキャット
© 2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 
 
 
 

 

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