「DitO」
2024年7月26日公開
ほとんど予備知識を持たずに観た。これが大正解! 掘り出し物の佳作だった。タイトルの「DitO」(ディト)は、フィリピンのタガログ語で「ここ(here)」を指す言葉。そのとおり、フィリピンを舞台に、主人公のボクサーと娘の「居場所」を探すのがテーマ。ハングリーなボクサーが挫折を繰り返しながら〝命がけの戦い〟に挑む姿を、娘と亡くなった妻との関係を交えながら描いている。というと、どうしても「ロッキー」シリーズが脳裏に浮かぶ。結城貴史がプロデューサー、監督と主演しているところはシルバスター・スタローン(シリーズ初期は主演のみ)、娘・桃子を演じた田辺桃子は、タリア・シャイアが演じたロッキー・バルボアの妻・エイドリアンを演じたと、ダブってくる。
しかし、それが「外枠」での話。妻(尾野真千子)と娘を日本に残して、ボクシングで世界を巡り、いまはフィリピンのジムで選手兼トレーナーをしている
英次。彼は金銭的なハングリーではなく、まだまだボクサーとして試合ができるという自負がありながら、年齢的なこともあって試合が組まれない。そんな「居場所」がない人物。また、桃子も母を亡くし、高校を中退して父のいるフィリピンにやってくる。それは衝動的なもので、彼女もまた「居場所」を探している。全編にわたってそうした渇望感が伝わってくる。ボクシングすることでのし上げっていく!というまさにハングリー精神が色濃く残っているフィリピンが、いっそうリアリティーを生み出している。
作品のために体を絞りボクシングテクニックを磨いた結城、素朴な風景のなかでピュアな雰囲気が際立つ田辺。そうした日本キャストはもちろん、フィリピンのキャストがとてもいい。英次を慕う若いボクサーを演じたブボイ・ビラール、トレーナー役のモン・コンフィアード。どちらもボクシングテクニックが巧で、そうした人物が演技をしているのか、それにしてはうまいな、と思っていたのだが、彼らは同国で知られる俳優。道理で、アクションだけでなく微妙な表情の変化がいい。また、ジム・オーナーを演じたルー・ヴェローソは、どこか「あしたのジョー」の丹下段平のような個性派で、いい味を出している。
また、ボクシングファンにはうれしいことも。ロケーションをしたエロルデジムは1960年代に活躍したボクサー、ガブリエル“フラッシュ”エロルデゆかりの名門ジム。エロルデと言えば、元WBA・WBC世界スーパーフェザー級[1]王者で沼田義明ら日本人選手と多く対戦し、日本でも知られた選手。さらにすごいのは、あの世界8階級を制覇したマニー・パッキャオが出演していること。しかも、なかなかいい言葉を英次の投げかけるのだ。
話題沸騰の大作もいいが、こうした「「伏兵」の出現も楽しい。
〈ストーリー〉日本に妻子を残し、異国の地・フィリピンで再起をはかるプロボクサー神山英次。ある日、神山の前に一人娘の桃子が現れる。再会した父と娘は衝突しながらも徐々に親子の絆を深めていく。そんな中、40歳を迎えた神山に、ラストチャンスとなる試合の話が舞い込んでくる──
2024年製作/118分/G/日本・フィリピン合作
配給:マジックアワー