「ブルーピリオド」
     2024年8月9日公開

ワーナー・ブラザース映画の案内で、試写を観た。おりしも、書いている時期はパリ五輪の真っ最中。頂点を目指しアスリートたちの戦いが繰り広げられている。このようなスポーツの世界は勝敗、順位がハッキリとしていて、トップを狙う選手たちの「汗と涙」がくっきりと浮かび上がる。そうしたドラマチックな展開はある意味ではわかりやすく明快。数々の映画が生まれてきた。
スポーツではなく、アート(絵画)をテーマにした「ブルーピリオド」は、それらとちょっと違う部分、共通する部分が混在していて、一見して「熱い闘い」の表現はないのに、なぜかハラハラドキドキもさせられる。原作は、「マンガ大賞 2020」を受賞、発行部数 700 万部を超える山口つばさの同名漫画。実写版が製作させると、リアルすぎて違和感を抱くものもなかにはあるが、これにはそれがない。情熱を内に秘めながらナイーブな金髪の主人公・矢口八虎を演じる眞栄田郷敦、女性的なルックスで〝ユカちゃん〟と呼ばれる八虎の同級生・鮎川龍二に扮する高橋文哉、ライバル・高橋世田介の板垣李光人ら、登場人物がまさに〝絵から飛び出した〟ような透明感があるキャストだ。
ビジュアル的にはクールなのだが、そこには「熱い闘い」がある。というのは、絵画に目覚めた八虎は、最高峰である東京芸術大学を目指すから。そこには、他人に勝つ!というよりは、自らの闘い、苦悩が描かれていく。例えば、最終選考に与えられた「自画像」のくだり。受験生たちはそろってすばらしいデッサン力があるのだが、そこに感性や想像力、独自性といったプラスアルファが要求される。出演するにあたって、絵の練習をしたという眞栄田のキャンバスに向かう姿にもリアリティーが漂う。
そして、ハラハラドキドキしたのは、合格発表のシーン。私事だが、長年にわたってメディアでもよく取り上げられる宝塚音楽学校の合格発表の取材をした。紙が貼りだされた瞬間、嬌声と慟哭が響き渡り、まさに、ある時期の「喜怒哀楽」が凝縮した強烈な一瞬だった。
近年はメールでの合否通知が主流になりつつあるが、東京芸術大学はいまも「掲示」のよう。
飛び上がって喜びたい、ところだが、一緒に行った友人たちへの気遣いなどもあって、そうした反応をしないところにもリアリティーがあり、この映画のスタンスというのが伝わってきた。

〈ストーリー〉ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。 悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみた。その時、絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした 八虎は、美術に興味を持ちはじめ、どんどんのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意する…。 苦悩と挫折の果てに、八虎は【自分だけの色】で描くことができるのか…。
〈キャスト〉眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己 、やす(ずん)、石田ひかり、 江口のりこ、薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
〈スタッフ〉監督:萩原健太郎、脚本:吉田玲子、音楽:小島裕規 “Yaffle” 主題歌:Wurts「NOISE」(EMI Records / W’s Project) 製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会  制作プロダクション:C&I エンタテインメント 配給:ワーナー・ブラザース映画 ©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

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