「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」
    2024年7月19日公開

 1969年7月20日アポロ号が月面着陸。翌21日にはアームストロング船長と乗組員のバズ・オルドリンが人類として初めて月面に降り立った映像が全世界で生中継された。当時、高校生だった私は外出していて、大阪の百貨店内の電器売り場で、居合わせた人たちと、まさに固唾を飲んで見守っていたのを覚えている。
 そんな〝夢のある出来事〟には、いろいろな噂が飛び交い。「実は、アレは月面ではなく、アメリカのスタジオで撮影されたフェイクだ!」(それもスタンリー・キューブリックが監督した?)という説がいまも伝わっている。空気がないのに、月面に立てた旗がなびいている、影がさまざまな角度でおかしい、といったもの。もともとフェイク(にせもの、まがいもの)といったことに興味があるだけに、こちらも〝夢のある出来事〟。完全に信じているわけではないが、それを扱ったドキュメンタリーや書籍(「アポロって、ほんとうに月に行ったの?」など)、そして映画はできるだけ観るようにしている。代表的なのは、「カプリコン・1」(1978年)で、月を火星に置き換えているが、まさにこのことをベースにしていて、アクションを交えた娯楽作として佳作だった。
 そんななか、公開されたのがこの映画。アメリカにとって「失敗は許されない!」ということで、〝安全パイ〟のために、奇想天外な極秘プロジェクトが進んでいく。その先頭に立っているのが、スカーレット・ヨハンソンが演じるPRマーケティングのプロフェッショナルのケリー。美貌を武器に、卓越したアイデア、巧なトークでPR、ときには話題性を作り上げていく。ある意味、どこか〝うさん臭さ〟さえあるヒロインを作り上げている。一方、チャニング・テイタムが扮した発射責任者のコールは真面目で、武骨なキャラクター。その2人が恋に落ち、月面着陸の生中継について〝駆け引き〟する様子がユーモアを交えて描いている。
 さらに、フェイクを作り出す映画スタッフたちが、いかにもハリウッドの映画人といった感じで、緊迫したリアルな月面着陸と絶妙にコンビネーションを見せている。そして、タイトルになった曲や「ムーン・リバー」など〝月がらみ〟のメロディもおしゃれ感を増幅している。
〈ストーリー〉1969年、アメリカ。人類初の月面着陸を目指す国家的プロジェクト「アポロ計画」の開始から8年が過ぎ、失敗続きのNASAに対して国民の関心は薄れつつあった。ニクソン大統領の側近モー(ウッディ・ハレルソン)は悲惨な状況を打開するべく、PRマーケティングのプロフェッショナルであるケリー(スカーレット・ヨハンソン)をNASAに雇用させる。ケリーは月面着陸に携わるスタッフにそっくりな役者たちをメディアに登場させて偽のイメージ戦略を仕掛けていくが、NASAの発射責任者コール(チャニング・テイタム)はそんな彼女のやり方に反発する。ケリーのPR作戦によって月面着陸が全世界の注目を集めるなか、「月面着陸のフェイク映像を撮影する」という前代未聞の極秘ミッションがケリーに告げられる。

監督・グレッグ・バーランティ。2024年製作/132分/G/アメリカ
原題:Fly Me to the Moon

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