「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
          2024年6月21日 

「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」でアカデミー賞®脚色賞を受賞したアレキサンダー・ペイン監督の新作は、全寮制の名門男子校を舞台にしたオリジナル作品だ。本作は助演のダヴァイン・ジョイ・ランドルフにアカデミー賞®助演女優賞をもたらした他、主演のポール・ジアマッティにゴールデングローヴ賞主演男優賞、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフに助演女優賞をもたらしている。これが長編映画デビューとなるデヴィッド・ヘミングソンは、エリート予備校で過ごした6年間の経験をもとに脚本を執筆したと言う。
舞台は1970年のボストン近郊。クリスマス休暇を前にした、伝統あるバートン校。学生達の大半が家に帰る準備をしている中で、4人の学生が2週間の間、学校に残ることになった。中でもアンガスは、休暇直前に親の都合で家に帰れないことになってしまい、ひどく落ち込んでいる。古代史の非常勤講師ハナム(ポール・ジアマッティ)と寮の料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)も休暇の間、学校に残って、学生達の面倒を見ることになった。
クサッているアンガスと、アンガスを管理しようとするハナムは仲良くやれる筈も無いのだが、クリスマスを生き抜くためにはお互い忍の一字。2人に少し距離をとって、メアリーは物思いにふけっている。ところがひょんなことから〝クリスマス居残り組〟に変化が訪れる。
秀逸なのは堅物のハナムが、校長とやりあうオープニングのシーンだ。経営のことしか頭にない校長の俗物ぶりに、ウンザリ顔のハナム。生徒にも教師仲間にも敬遠されているけれども、実はハナムが誰より教育を大切にしていることが、象徴的に描かれる。他の教師達のように器用に立ち回らないハナムのキャラクター設定は、同時に後半の重要なエピソードの伏線になっている。
ハナムを演じる、ポール・ジアマッティは実にナチュラルだ。ハナム役は脚本段階からジアマッティにあて書きされたものだが、ジアマッティが更に豊かに膨らませた。2004年の「サイドウェイ」以来、二度目のタッグとなる今回も監督との呼吸はピッタリ。独裁的で不器用な人物を全身で面白く表現して、新人の若いドミニク・セッサのお芝居を丁寧に受ける。
もう1人のキーパーソン、料理長のメアリーの背景を通して、アメリカという国が浮き彫りになっていることもドラマに厚みを加える。メアリーは一人息子をベトナム戦争で亡くしたばかりの黒人女性だ。ベトナム戦争には多くの黒人が従軍した。貧しさから軍隊に入った者も多い。そんな不平等の歴史を演じるダヴァイン・ジョイ・ランドルフは、シリアスな中にもユーモラスな演技で、メアリーの孤独を表現する。
「サイドウェイ」も「ファミリー・ツリー」も本作同様、人間の心の機微を描いたオーソドックスなタイプの人間ドラマだったが、今回、テーマとして使われているキケロの〈人は自分のためだけに生まれたのではない〉は今こそ聞いて、新鮮な言葉。彼らのような立場に立ったら自分ならどうするだろうか。思わず考えてしまい、胸に刺さる作品だった。

(2023年/アメリカ/133分)
配給 ビターズ・エンド
Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

 

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