「骨を掘る男」
2024年6月15日公開
沖縄の戦没者の骨を掘る人物を撮影したドキュメンタリーだ。自身も戦没者遺族である奥間勝也監督が取材したのは、28歳の時から信念を持って骨を掘り始めた、撮影時65歳の具志堅隆松さん。
沖縄南部の土が、辺野古の埋め立てに使われている。いわゆる戦没者遺骨土砂問題のポイントは、激戦地があった南部に死者の骨が多く埋まっていることだ。1人で暗い森に分け入り、小さな骨を掘り出すことは、具志堅さんにとって慰霊の為の行動で、希望する遺族にはDNA鑑定にもつなぐ。彼は遺骨が散在する土砂で辺野古を埋め立てることに反対し、ハンガーストライキまで決行する闘士なのだが、普段は温和で優しい人物である。奥間監督は、具志堅さんに寄り添い「戦没者の尊厳を守りたい」という彼の理論を引き出し、言葉の向こうにある沖縄の歴史をひもといていく。沖縄戦で大叔母を亡くした奥間監督にとって映画制作は、会ったことも無く、何処で亡くなったかもわからない大叔母に近づくことであり、それ以上の意味を持っている。
後半では、糸満市の平和の礎に刻まれている戦没者の氏名を、声に出して民衆が読み上げていくというプロジェクトが描かれる。戦争のせいで、どれだけの人が犠牲になったのか。そこで命を落とした人達の、無念の想いの後を生きる私たちに出来ることは何か。反戦の想いが重なる映像には詩が漂う。平和の礎の上を這うカタツムリの姿は、まるで具志堅さんの静かな歩みのようだ。
民主主義だなどと言っても、民衆の1人ひとりが歴史の傷みと向き合う時に初めて、人間の尊厳を自覚出来るようになるのだろう。名も無き骨を掘る具志堅さんは言う。「私は、戦没者への最大の慰霊は、2度と戦争を起こさせないことだと思う」。死者の慰霊はたくさん動物が居る中でも、人間しかやらない。そんな人間的な姿と営みを観ていてヒリヒリとさせられた。
(2024年/日本/115分)
配給 東風
© Okuma Katsuya,Moolin Production,Dynamo Production