「ちゃわんやのはなしー四百年の旅人―」
  2024年5月18日からポレポレ東中野。
       5月25日から東京 東京都写真美術館ホールほか
       6月14日から大阪・第七藝術劇場
       6月21日から京都・アップリンク京都
       全国で順次公開

 ちょっと前なら「へえ~」と感心するしかなかった陶芸の世界。いまは「うん、うん」と
ちょっとわかるようなところも出てきた。というのも。今年に入って陶芸を習い始めたから。ろくろに手を差し伸べると器ができる…と簡単に思っていたが、そんなものではない。一流の料理人が一品を作り出すように、一流のマエストロが名曲を奏でるように、陶芸家は鋭い感性で粘土を〝操り〟、銘品を作りあげていく。そんな奥深さが少しだけわかり始めた気がしていたが、その一方で、背景には時代に翻弄された歴史があった。このドキュメンタリー映画は、その現実を、わかりやすく、しかもある意味で人間ドラマとして訴えかけてくる。
 薩摩焼(鹿児島)、唐津焼(佐渡)、有田焼(佐賀)、上野焼(福岡)、萩焼(山口)といった焼き物の名称は知られているが、私も含めて〝日本のもの〟だと思っていた。しかし、それらのルーツは朝鮮半島にあった。豊臣秀吉が1591年から1958年に渡って行った朝鮮出兵(文禄・慶長の役)。日本から文禄・慶長を合わせて延べ 30万人の軍隊が派遣された、それに参加した九州・ 山口地方の大名たちは、当時茶道具をもって中央政権と深く関与していくために、自分たちの領国にはない技術を持った朝鮮人陶工たちを連れ帰り、焼き物を作らせたのだった。この映画でが、そうしたルーツをもつ萩焼の十五代坂倉新兵衛、上野焼の十二代渡仁、そして薩摩焼の十五代目沈壽官らにインタビューしてひも解いていく。なかでも、司馬遼太郎が小説「故郷忘じがたく候」の主人公として描いた十四代沈壽官(2019年没)を父に持つ十五代目沈壽官のこれまでの経緯や仕事ぶりが丁寧に描かれている。そのなかには、幼い頃に偏見、差別を経験した彼に対して、父(十四代目)が語った言葉も紹介され、そこにはいまも残る問題も提起している。
 美術館で観る至宝の品物はもちろんだが、生活するなかで特別なとき、また日常品として使っている「ちゃわん」などの陶芸品。そこにも、語りつくせないほどの想い、歴史、現実があるのを知る貴重な一作だ。
<作品概要>豊臣秀吉の2度目の朝鮮出兵の際に、主に西日本の諸大名は各藩に朝鮮人陶工を連れ帰った。薩摩焼、萩焼、上野焼などは朝鮮にルーツを持ち、今もなおその伝統を受け継いでいる。幼少期に経験した言われなき偏見や差別の中で、日本人の定義とは何かと自身のアイデンティティに悩んだ十五代沈壽官を救った司馬遼太郎の至宝の言葉。その十五代沈壽官が修業時代を過ごした韓国・利川にあるキムチ甕工房の家族は、十五代から学んだ伝統を守る意義を語る。沈壽官家の薩摩焼四百年祭への願い。そして、上野焼宗家・十二代渡仁が父から受け継いだ果たすべき使命。萩焼宗家・十五代坂倉新兵衛が語る父との記憶と次代への想いとは…。朝鮮をルーツに持つ陶工たちを通じて、日本と韓国の陶芸文化の交わりの歴史、伝統の<継承>とは何かが浮かび上がる。
◆出演:十五代 沈壽官 十五代 坂倉新兵衛 十二代 渡仁 ほか ◆語り:小林薫。◆企画・プロデュース:李鳳宇 ◆監督:松倉大夏 ◆撮影:辻智彦、加藤孝信 ◆編集:平野一樹 ◆アニメーション:小川泉 ◆作曲:李東峻 ◆プロデューサー:長岐真裕 ◆宣伝美術:李潤希◆助成:文化庁 「ARTS for the future! 2」補助対象事業◆特別協賛:株式会社フェドラ、Asia Society Japan Center、大韓航空、財団法人李熙健韓日交流財団
2023年 | 日本 | 日本語・韓国語 | カラー | 5.1ch | 117分 ◆コピーライト:©2023 sumomo inc. All Rights Reserved.

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