「碁盤斬り」
2023年5月17日公開
友人の勧めで、藤沢周平の時代小説「橋ものがたり」を読み進めている。これまで、読むのはノンフィクションがほとんどだったが、年齢のこともあるのか、人情を描いた物語にジーンとするようになってきた。落語や講談、歌舞伎の演目になっている「文七元結(ぶんしちもっとい)」、「幸助餅」など、いわゆる人情噺も好きで、「エンタメREVUE」にもアップしたように、松竹新喜劇公演「幸助餅」にホロリとした。そうして、これまで思うことがあまりなかった山本周五郎や藤沢周平の作品も読んでみようと考えるようになってきた。
そんななかで観た「碁盤斬り」。落語では「柳田格之進」「柳田の堪忍袋」という題名でも演じられている。とはいっても、恥ずかしながらこれまで、まったく知らなかったので、YouTubeで古今亭志ん朝、柳家花緑が演じているのを〝予習〟して映画館へ行った。これを映画化しようと思った白石和彌らスタッフはさすが眼力がある。そして、このように古今東西に、ドラマ化する魅力的なコンテンツがあるのを実証した。
この映画(脚本・加藤正人)では、原点にはあまり語られていなかった主人公・格之進(草彅剛)が藩を去った訳。彼をそのように仕向けた武士(斎藤工)を登場させることでよりドラマチックな展開に。一方、娘・お絹(清原果耶)の人物像を膨らませて、親子の情愛や弥吉(中川大志)との純愛も描いている。さらに、碁の好敵手である豪商の源兵衛(國村隼)も、落語では最初から善人であったが、出会った時にそうでもなかったという設定にすることで、より友情関係が明確でわかりやすくなっていた。
また、娘が父のために、自ら廓へ身を投じようとする場面。女将・お庚(小泉今日子)が、「大晦日までに金を返せなければ、私も鬼になる」と言う。このセリフ、くしくも前述した「文七元結」や「幸助餅」にも登場する。これに象徴されるように、情と不義理は紙一重、みんなギリギリのところで生きていた当時の人々の様子がうかがえる。
草薙は終始、いまでいう「クール」なたたずまい。しかし、あることをきっかけに怒りが爆発、復讐の鬼と化していく。そして、疑いを晴らした格之進は、良き友の源兵衛の首を斬ることに…。2時間、江戸の風情を満喫したが、ただ、1点、決着を暗示するような題名は?あまり知られていないので、あえて違うネーミングでもよかったのではないか、とさえ思った。
〈あらすじ〉身に覚えのない罪をきせられたうえに妻も失い、故郷の彦根藩を追われた浪人の柳田格之進は、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしていた。実直な格之進は、かねて嗜む囲碁にもその人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心がけている。そんなある日、旧知の藩士からかつての冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は復讐を決意。お絹は仇討ち決行のため、自らが犠牲になる道を選ぶが…。
藤正人が脚本を手がけた。
2024年製作/129分/G/日本
配給:キノフィルムズ