「このほど、英華びより」
内海英華四十五周年公演
2023年9月9日 心斎橋PARCO SPACE14
昼の部 午後2時
夜の部 午後6時
「女道楽」という芸で活躍する一方、繁昌亭など落語の催しでは、御簾(みす)の内で三味線でお囃子を奏で、落語家たちを支えている内海英華。講釈師を志し、初代旭堂南陵に入門したのが45年前。その後、寄席三味線を修練して、「女道楽」という芸を復活させた。三味線を持つ高座で、軽妙な語りとさまざまな曲を奏でる「女道楽」、現在では唯一の存在。そうした存在に興味があり、2012年に神戸での独演会に足を運んだ。第1部では親交が深い桂春団治が高座をつとめ自らも「女道楽」を、第2部では宗清洋(トロンボーン奏者)らミュージシャンたち、お囃子も得意とする落語家仲間による「粋(すい)~てすとさうんど」というグループを結成してのバンド演奏もあり、三味線でジャズを奏でた。期待以上の中身の濃いに内容で、この公演で英華は文化庁芸術祭大衆部門で大賞に輝いたほど見事な「和洋」の融合だった。
芸能生活45周年を記念した今回はさらにそうした要素が充実。昼の部は「和」ということで、同期の桂米團治らの落語などと共に、お囃子をクローズアップ。上方落語には「はめもの」という噺のなかで音楽、効果音が登場する趣向がある。ふだんは、それがどのようにして奏でられているのか観ることができないのだが、今回はそれを観客の目の前で。演じる側と息を合わせないといけないとあって、これがまさに息詰まる真剣勝負!「七度狐」を演じた演者(笑福亭喬若)の〝一挙手〝(一投足)を見逃さないという、英華をはじめ桂阿か枝、林家染八、笑福亭呂翔らお囃子を担当する面々の表情は高座でのそれとはまったく違っていた。これから、「はめもの」入りの噺を聞く時の気持ちも変わる気がする貴重な企画となった。
そして、中入後、英華は「たぬき」全編を披露。「女道楽」を名乗っていた初代 立花家橘之助(たちばなや きつのすけ、1866年7月27日 – 1935年6月29日)が奏でていた約5分に及ぶ大曲。かつて、山田五十鈴が橘之助を演じた「たぬき」「新編たぬき」という舞台があった。私も観る機会があったが、山田が生で見事に全曲を弾き切ったことに驚いた記憶がある。(YouTubeにアップされているので、改めて観た)。ということで、英華が45周年の集大成としてこれを披露したのは大きな意味がある。
余韻を残して夜の部へ。こちらは「洋」のテイスト。とはいえ、女道楽では「かっぽれ」を踊って多芸ぶりを。そして中入後は、「内海英華with宗清洋と粋ていすとさうんど」による演奏。「12番街のラグ」などのジャズやベンチャーズの♪テケテケテ~(「ダイヤモンドヘッド」)などを三味線で弾き、「テネシーワルツ」「ダイナ」などを歌った。いったい、いくつの顔があるのか?! ジャンルを超えた好奇心、探求心に裏打ちされた芸にいい意味で満腹。ルーティーンになりがちな最近の自らの日々を反省する、刺激的な1日となった。