山田監督&吉永コンビ作
映画「こんにちは、母さん」
9月1日から全国ロードショー
「こんにちは、母さん」(松竹配給)は山田洋次監督(91)の90本目、吉永小百合(78)の出演123本目の作品。日本映画界の宝といえる監督と女優である。コンビとしては「男はつらいよ」シリーズのマドンナで2本と、「母べえ」「おとうと」「母と暮せば」の3本に続く6本目。マドンナ・歌子の吉永は20代で、後者の3本は昭和の母親役。監督と女優がそれぞれ積み重ねたものを出し合って作品に込めたのではなかろうか。その意味で山田映画と吉永の一つの到達点がここにあろう。
劇作家・永井愛の同名戯曲の映画化。平成の時間を令和の今に移し、東京スカイツリーが立つ下町向島に住むサラリーマン・神崎昭夫(大泉洋)と母親・福江(吉永)を中心とした家族の物語。仕事と家庭生活がうまくいかず、昭夫が久しぶりに実家で独り暮らしをしている母を訪ねるところから話は始まる。そこで意外にも、福江が髪を染め明るく、恋をしているらしいことに驚かされる。
吉永の福江は日活「キューポラのある街」からを知るサユリストにとっては何の違和感もない。むろん、山田監督にとっても「歌子」のその後を福江に託しているに違いない。そして、昭和の時代の苦難をくぐり抜けて生きた彼女に、より良き人生をと、お年寄りの紳士・荻生直文(寺尾聰)と出会わせる。寺尾がまた吉永の日活時代の恩師・宇野重吉の息子であるところにドラマと現実の交錯を感じ思わず頷いてしまう。
息子の昭夫が母の変身ぶりを見ながら、反抗する娘の舞(永野芽郁)や、会社で揉める同僚・木部(宮藤官九郎)との葛藤に地団駄踏む男の姿は、昭和、平成、令和と変わらないのかも知れない。山田映画を初めて見たのは「馬鹿まるだし」(1964年)で、以前の「二階の他人」「下町の太陽」を含めて全作品を見ている。1本といえば「家族」(70年)を挙げるが、今は「こんにちは、母さん」に繋がる多くの山田映画の名場面が脳裏を巡る。
この映画は、お年寄りの寺尾ともう一人、田中泯ふんする近所の回収業・井上の存在がいい。町の住人で山田映画なじみの神戸浩が顔を出しているのもうれしい。そして吉永小百合は不滅である。
写真は吉永小百合(右)と大泉洋/(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
※この映画については、辻則彦、岩永久美も感想をアップしています。併せてご一読ください