「クリード 過去の逆襲」
2023年5月26日公開
「ロッキー」という映画(1976年)が公開された時は衝撃的だった。それまで、映画といえば名前が轟いたスター俳優が主演するドラマというのが当たり前だったのだが、その常識を鮮やかに覆したからだ。自分が主演するために脚本を書き、それを映画会社に売り込み、ついに夢を実現!シルベスター・スタローンは、まさにその映画とダブように「無名俳優」から「スター、チャンプ」になったのだ。それを原点に「ロッキー」シリーズが5作生み出され、さらにそのバックボーン、精神を受け継ぐ「クリード」シリーズが2015年からスタート。この映画はその3作目。「ロッキー」という原点から、ここまでいろいろなドラマ、歴史が作れるのだと感心、まさにサーガ(神話・伝説・歴史などの口承を記録した叙事文学)ともいえる。今回、スタローンは製作クレジットだけで、出演はなし、〝親離れ〟して、シリーズとしての存在感がいっそう増した。
物語は、ロッキーの魂を引き継いだチャンプ、クリード(マイケル・B・ジョーダン)の前に刑務所から出てきた幼馴デイム(ジョナサン・メジャーズ)が現れる。実は、クリードには家族同然の仲間を宿敵に変える誰にも言えない過ちがあった…。というもの。
ストーリーのカギを握っているのは、ボクシング界では伝説となっている「キンシャサの奇跡」。1974年10月30日、ザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)の首都キンシャサで開催されたプロボクシングWBA・WBC世界統一ヘビー級タイトルマッチ。王者ジョージ・フォアマンにモハメド・アリが挑戦した試合で、徴兵回避などで全盛期に戦うことができなかったアリに、多くの人は「敗戦」を予想していたのだが、第8ラウンドに劇的な逆転KO勝利をおさめたことからこう呼ばれるようになった。この試合は全世界で衛星放送され、日本でが30日午後1時から生中継。私も手に汗を握った1人だったが、終始ロープに追い詰められているように見えた。しかし、それは実はフォアマンに疲れさせるためのアリの作戦だった?と後になって語り継がれている。
さて、この映画では幼い頃にクリードがデイムにその試合の貴重なチケットをプレゼント。「父親もこの時に出ていた」と、アポロの知られなかった試合歴も明らかになる。さらに、刑務所から出たデイムは、このチケットを郵便で送り返すのだが、これが後の2人の決別を暗示している。また、クリードの戦法も、その時のアリを意識しているようにも見えて、「キンシャサの奇跡」を知っていると、いっそうドラマが楽しめる。そんな観点からすると、デイムとの因縁の一戦。クリードは、もう少し〝弱そうな〟描写のほうが、面白かったのではとも思う。
一方、「ロッキー」シリーズへのリスペクトも随所にあって、それを見つけるのも楽しい。例えば、軽快な音楽をバックに走りこみ、ロサンゼルスの有名な看板「HOLLYWOOD」で両手を上げるシーンは、あの「ロッキー」でのフィラデルフィア美術館での場面とダブってくるし、試合が終わった後に娘を抱きかかえるのは、「ロッキー」の「エイドリアン!」と叫ぶシーンとも。
どうやら、このサーガはまだ続きそうで、女子プロボクシングも登場すると予感するのだが。
写真は、世紀の対戦に挑むクリード(左)とデイム
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映画『クリード 過去の逆襲』オフィシャルサイト (warnerbros.co.jp)