「歌うシャイロック」
2023年2月9日~21日 南座
3月16日~26日 サンシャイン劇場
同時期に映画「シャイロックの子供たち」も公開中で、なにやら「シャイロック」ブーム?シェイクスピアの「ベニスの商人」に登場するこのキャラクターは、「強欲な金貸し」というイメージがすっかり定着し、そういった人物や金にまつわるに物語に、「シャイロック」が使われるようになってきた。
「歌うシャイロック」は「焼肉ドラゴン」などを作・演出した鄭義信(チョンウィシン)が役名はそのままに舞台を、同じく「水の都」でもベニスではなく大阪に設定。登場人物は関西弁を駆使し、しかも「裁判後」のシャイロックの姿も描くという大胆なアレンジをした群衆劇ともいえる作品。冒頭に、金庫を大切に抱えるシャイロック(岸谷五郎)の娘の姿に、菊田一夫の名作「がめつい奴」がダブってきた。それほどに、難解に思われているシェイクスピア作品を感じさせないほど見事に翻案、それ以上にオリジナル作品になっている。(ストーリーはやや複雑なので、下記の公式ホームページ参照を)
ある青年に金を貸したが、返してもらえなくなったシャイロックは、裁判で青年の体の「肉1ポンド」を代償として要求して、みんなから激しく非難される。彼の強引な行状もだが、根本的なところで彼がユダヤ人であることが憎まれている最大の理由。当時からの「ユダヤ人差別」を、ある意味でシェイクスピアは前提に、「悪人」として描いているのだが、よく考えると、そんなに極悪非道なのか?根底には差別がある状況を、鄭は出自である「在日」への偏見、差別を重ねあわせることで、たくましく生きようとする人間・シャイロック像を描いている。恋人と駆け落ちし、さらにその恋が破れて精神が乱れる娘を思うのは、特異ではない父親の姿だ。そして、裁判でことごとく奪われるという原作にはない場面。リヤカーを引き、ユダヤ人にとって聖地であるエルサレムに向かう姿は、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」とも重なり、胸に迫ってくる。
鄭は、カンヌ映画祭パルム・ドール、アカデミー賞などに輝いた韓国映画「パラサイト」舞台版(6,7月に上演)の演出が決まっている。1970年代の大阪に置き換えてのドラマはいまから楽しみだ。
写真(C)松竹
歌うシャイロック (shylock-stage.com)