坂本冬美公演「華麗なるサギ師たち」
「オン・ステージ 艶歌の桜道」

新歌舞伎座  2023年2月3日~26日

時代劇でもなく現代劇でもなく、坂本冬美が主演するこの芝居は、文明開化の鹿鳴館が舞台。新劇には三島由紀夫が戯曲を書いた「鹿鳴館」が劇団四季などで上演されているが、それ以外のいわゆる商業演劇では珍しい時代設定。当時の社交場でのドラマだけに、女優陣は裾が広がったドレス姿、男優陣は燕尾服といった正装がほとんど。いみじくも、江戸から明治に移り、無理して性急に西欧化を目指していた当時の様子が映し出されているようでもあり、そこにいろいろなサギ師がいるのも、無理がなく思える。
劇中に「ニセモノであっても、持っている人物がホンモノだと思っているなら、ホンモノだ」といったセリフがあって、その通り!だと思った。なにも、そこまで〝深読み〟する必要もないのだが、大学時代に書き上げた卒業論文「複製技術が生み出すところの通俗性」で重要な参考文献にした「複製技術時代の芸術作」(ヴァルター・ベンヤミン著)を思い出した。写真技術、コピーなどの発達によって、詳細までホンモノと間違えるようなニセモノが出現。そうなると、どこに境界線があるかが、だんだんとわからなくなっていくことを学術的に解説している。そこには、ゴッホの描いた「ひまわり」のホンモノは美術館に収蔵されているのはわかっていながらも、「家に飾ってある『ひまわり』をホンモノだと思って見たら、その人にとってそれはホンモノだ」といったことも書かれてあった。芸術的、金銭的には大きな違いはあるけれど、それぞれの想い入れで、ホンモノにもニセモノにもなる…という1つの考え方だ。ある意味では、この物語はそれを理屈っぽくなく、わかりやすく、楽しく描いている。
坂本をはじめ、中村梅雀(出身・前進座)、舞台「宝塚BOYS」(原案は拙著「男たちの宝塚」)などもあるが、映像を中心に活動している葛山信吾、木村花代(出身・劇団四季)、三上市朗(出身・劇団MOP)、長田光平(2・5次元ミュージカル)と多彩な共演陣。坂本が端唄「さのさ」、木村がオペラ「カルメン」のそれぞれ一節を掛け合いで歌い〝ライバル心〟を燃やすシーンなどは、それぞれの得意を生かしたコラボ。「サギ師」が主人公ではなるが、それほど悪人でもなく、陰の悪人も憎めないのも心地よい。
「オン・ステージ」では、幼い頃からベースを練習している梅雀がその腕前を披露。彼のソロ演奏で坂本が歌う「糸」は得した気分に。さら和太鼓のバックでの「あばれ太鼓」、さらに極めつけ「夜桜お七」とたっぷり。年齢層が高く、芝居内容、ステージングなどの完成度を見逃されがちな商業演劇というジャンルだが、もちろん一見の価値あり!

坂本冬美特別公演|公演情報|新歌舞伎座 (shinkabukiza.co.jp)

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